第159話 この支配からの・・・卒業できますか?

 インターネットが普及する前。

 特に六十年代から九十年代初頭辺りまで、つまり、日本が我が世の春を謳歌していた時代。


 世の中は溢れんばかりの金の嵐だった。

 就職やアルバイト雑誌は、今の漫画雑誌レベルで厚かったし、待遇も今とは正反対で入社式をハワイでやるという派手なものもあり、ドラマやバライティーは「自分たちが流行を作っている」という気概があった。


 今の二十代、三十代には信じられない世の中だった。

 スマートフォンもパソコンも、インターネットも、YouTubeさえなかった時代だ。


 そして、そこには今でいう『カリスマ』と呼ばれる俳優や歌手がいた。

 彼らは世の大人や世相に対して「俺たちこそが正しい!」と猛アピールをしていた。

 

 その頃、私は小学生で貧乏で虐められていた。

 そう、バブル景気などはごく一部の所得者だけの話だった。

 ただ、父親は朝早く出て夜遅くに帰って来たのを覚えている。


 今より情報伝達の手段も正義すらも違っていた時代だ。

 文字通りの弱肉強食の世界だった。


 今も、その頃の記憶はPTSD(心理的外傷)として疼く。


 一人ぼっちだった私にとって青春ドラマや若者賛歌の歌は今聞いてもイライラする。


 そして、月日は流れ、私は四十代になった。


 今だって後悔も憎しみも怒りもある。


 でも、今は一人ではない。


 また、世界も常識も大分様変わりした。


 かつて、私を苦しめていた理想主義は失笑の的になっている。


 人は必ず老いる。


 今だ、『青春』などという大人を見ると何となく、バブルが弾け、長期不景気になったか少しわかる気がする。

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