第155話 日本よ、『休もう』

 私は休むのがとても下手な人間である。


 両親がバリバリ仕事人間で、その背中を見て育ったので「大人=常に働いている人」だった。

 

 だから、有給休暇なんてものはリストラするための口実だとさえ疑っていた。

 そりゃ、精神が病む。


 病気で倒れてもそれは自分が悪いと思っていた。


 初めての上司命令はこれだった。

「隅田さん。ここに入社してから一回も有休使ってないでしょ? 総務から怒られたよ。明日、来なくていいよ。有休出しといたから……」


 その数年後。

 私は脳が機能不全で治療とリハビリのために約八年間という長期(?)の休暇に入る。


 もちろん、その時は無職で障害年金が文字通りの命綱だった。

(ほかにも援助はもらっていたけど)


 病院でも言われた。

「隅田さん、休むの下手」

「はぁ……」

「何というか、昭和のサラリーマン的思考なのよね」

「はあ」


 実は今でも休むのは下手だ。


 思うに日本人は未来を基本的に「暗く」考える傾向がある。

 だから、余裕を持たせるために前出しに考え、最悪の状態に対しても最小限に抑えようとする。

 対して海外、特に欧州は「今を大事にする」という思考だ。


 顕著なのが我が両親である。

 子供のころから不器用で、大人になれば『発達障害』という障碍者である私に対して常に先々のことを考えて「貯金しろ」などという。

 私もそれなりに大人なので言いたいことは分かる。

 でも、私は『今の私』を愛してほしかった。

 守って欲しかった。


 ある経済学者がこんなことを言っていた。

「未来なんて誰にも分らないし、世の中がどうなるかさえ分からないのに、人々はどうして勝手に『作りたがる』のだろうね?」

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