第134話 「人生の目的? ・・・知らねぇよ、そんなお題目」

 私の好きな作家である浜辺祐一医師が長年勤めあげた救命救急から定年退職をした。

 まずは、「お疲れさまでした。これからはのんびりしてください」とねぎらいたい。

 三十六年という長い時間を救命救急で過ごされた。

 そのせいか、ちょこちょこっとインタビューが記事になってネットで見られるようになった。


 その中の一つのインタビューでこんなことを言っていた。(例によってかなり大まかな要約)

「自分は救命の現場からは離れるが、これから生きる人は人生の生きる意味や価値で悩むだろうし、それが原因で命の意味なども変わってくるだろう。特にコロナ禍の今はみな閉塞感で疲弊している」


 ここで、一つ自分に問うてみる。

――人生の目的とは何か?


 科学的に言えば「優秀な遺伝子を後世に残すために生きている」。

 俗にいう自然淘汰が、それだ。

 地球上のあらゆる生物は、自分の遺伝子を後世に残すため、または進化させるために日々生きている。


 ただし、これはあくまでもの話だ。

 人間は『社会性』という独特の構成をなし、文化・文明という今までの地球上の生物にはなかった手段で自分たちの経験や思想を後世に残した。

 他の生物がDNAという遺伝子のみで情報を伝えるのに対し、人は文字や写真、映像などで他者と共有し進化していった。


 はい、これで解決……なわけない。


 科学だけでは割り切れないのが人間の常である。

 私自身、科学的なことは好きだが神話や寓話が嫌いか? と言えばそうでもない。

 事実、私はここで愚にもつかない小話を毎週せっせっこ書いているのだ。


 では、もう一度。

 今度は科学的な視点ではなく、思想・哲学として自分に問う。

――人生の目的とは何か?


 多くの哲学者や詩人が、この難問に挑み様々な答えを出した。

――愛する人のために生きる

――世界を平和にする

 などなど実に多種多彩な答えが今日も世界中のインターネット空間などで繰り広げられている。


 実際、一時期、というか、数年前まで私は本気で「自分がこの世界を変えないといけない。そのためには、私は憎まれ役になり、みんなを圧倒的な力で鬱にして、その中から私を殺せるカリスマが出ればいい」と思っていた。

 自分のことながら、あまりにもぶっ飛んだ内容である。

 でも、この思いを後生大事にしていた。

 そうしないと世界が終わると本気で思っていたからだ。

 経験したことないと分からないかもしれないが、物凄い重圧プレッシャーになる。

 でも、誰にも言えなかった。

 馬鹿にされるのは目に見えていた。

 周りから「どうして?」「なんで、こんなことをしたの?」と言われても黙っていた。

 相手を追い詰めて自殺寸前まで追い込み、その直後に自分の境遇や才能を開花させる。

 そのために私は犠牲になる。


 ……まあ、続きもあるが、ここで一回止めよう。

 よくぞまあ、こんな荒唐無稽こうとうむけいなことを思っていた。

 そりゃ、鬱にもなるよ。


 でも、それが私の生きる意味だと信じていた。

 これも事実だ。


 発達障害やPTSD(心理的外傷)が分かった頃から、私はリハビリを始めた。

 就職も運よくできた。

 こうして無料で自分の思いを書ける場所もできた。


 仕事帰りにふと気が付いた。

――心が軽い


 それは今までの人生経験で味わったことのない、実に不思議で新鮮な感覚だった。

 別に私が何かしなくても地球は回るし、事件・事故だって私が起こしたわけではない。

 今の世の中だって、悪いニュースばかりが目に入るけど、そうでもないニュースもある。


『楽だぁーー……』


 そんな私の人生経験からすると、実は人間って他の動物と同じように目的があって生まれるのではなく、生きているから目的が欲しいのかもしれない。

 そう考えると、こう言い変えることもできる。

――人生の目的は何度でも変えられる

――だけど、本当にやるべきものを見定めたなら意地でも押し通せ


 私自身の人生を振り返ると、かなりヘアピンカーブの多い人生を歩んでいた。

 それも、『障害』という癖のある車だった。

 でも、それは、小説を書く上で非常に役に立っている。

 私の書いた小説は一生、世に出ないかもしれない。

(いや、本音では書籍化を狙っています。できれば、ラジオドラマ化)

 

 もしも、目の前に浜辺医師がいて「お前の人生の目的はなんだ?」と問われたらこう答えたい。


「目的を作り出し、その頂点に立つこと」

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