第133話 滅びの美学

 私の好きな作家である故・柴田錬三郎は『滅びの美学』というものを提唱していた。


 物事には始まれがあれば終わりがある。

 永遠に存続し続けることは生命があるものであれば逃れられない宿命だ。

 例え、クローン技術が発達して人が一万年、一億年生きることが出来たとしても、それは本当に幸福なのだろうか?


 進化論の観点からも『滅びる』というのは一生命体、一個体が地球上で進化するためには必要不可欠なものだ。

 例えば、仮に恐竜が絶滅しないで生き残っていたら人類は、もっと書けば哺乳類そのものが繫栄できなかった。


 しかし、そこに『美学』を求めるのはいささか抵抗のある人もいるだろう。

 せっかくの頂点、せっかくの栄誉、せっかくの優勝……

 それらを投げ捨てて世間から静かに消える。

 日々、読者のPVや星欲しさに物を書いている人間からすれば、「その後塵でもいいから自分にくれ!」とさえ、思う。


 で、考えてみる。

 私が有名作家の仲間入りをして『幸せ』なのだろうか? と……

 正直、その保証はどこにもないし、アイディアだっていつか枯渇するだろう。

 でも、その地位にしがみつき、ある事ないことを書き殴って「あー、この作家終わりだな」と読者に冷笑されたら辛い。

 

 もちろん、今現在、作家になりたい願望はある。

 でも、かつての長嶋茂雄や今の羽生結弦のように「今が盛りだからこそ、あえて身を引く」という誇りは、とても清々しく潔い。

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