第3話

 角川文庫の巻末にある「角川文庫発刊に際して」は、角川書店の創業社長にして角川春樹の父、角川源義が執筆した文章だ。


 だが角川春樹が社長就任時、一時的に角川文庫の巻末に彼自身が執筆した文章が載ったことがある。


 それによれば、小説はそれ自身完結した最高のエンターティメントであり、映画やテレビドラマ、漫画、アニメなど他のメディアに原作を提供するだけの”シナリオ”ではない、というようなことが書いてあった。


 映画を積極的に制作している角川が小説をリスペクトしている。


 角川は小説など時代遅れでつまらないメディアだと考えているから映画業界に参入したのでは、と世間的には思われてるが、どうもそうではないようなのだ。




 「八つ墓村」、「獄門島」は文庫も読んだし映画も観たが、文庫の方が面白い。


 そもそも作者、横溝正史は江戸川乱歩などと違い、角川文庫に収録されなければ、世間から忘れ去られるミステリー作家だったかも知れない。


 角川文庫に最初に収録された横溝正史の作品は「八つ墓村」だが、おそらく当時絶版状態の埋もれた名作を角川の眼識で文庫化したのではないか。「獄門島」ならミステリー評論家から高く評価されていたが、「八つ墓村」は角川が取り上げてから世間的に日の目を浴びるようになったのだ。


 この他、「復活の日」も文庫と映画の両方をチェックしているが、文庫に軍配が上がる。


 作者、小松左京は「日本沈没」や「エスパイ」がすでに映画化されていたし、小説でも原作の映画でも角川書店なしでも有名なSF作家と言えるが、「復活の日」が彼の真の代表作であることを見破った眼識は、メディア業界では角川にしかなかったようだ。




 すべての作品をチェックしてないが、原作の角川文庫の方が角川映画より面白いし、実はそれを角川はよく知っていたのだと思う。


 メディアミックスで一番面白いのは小説。彼はこれをよく理解していた。

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