第11話 灰になれ

「待たせたな」


 増援に来たのは奇妙なデザインのフルプレートアーマーの人物でした。鎧のあちこちに逆立ったうろこのような鉄板が生えています。顔はヘルムに隠れていてわかりませんが、声から男性と分かります。


「その鎧! あんた『放火魔ジーン』か!?」


 近くに居たヨシムさんが声を上げました。ジーンという名前なら書類で見た覚えがあります。採取依頼では採取対象の燃えカスを持ち帰り、護衛依頼では護衛対象ごと敵を燃やし、討伐依頼では魔物の丸焼きを持ち帰るギルドの問題児です。


「後は任せてくれ」


 ジーンさんはそう言うとトレントに向かって走っていきました。トレントの葉っぱ攻撃がジーンさんに集中しますが、プレートアーマーのおかげで平気そうです。


 ただ、気になる点が一つあります。ジーンさんは鎧は装備していますが、武器を装備していないのです。そしてツタに拘束されるジーンさん。


 するとジーンさんの鎧が火を噴きました。ツタが燃えてジーンさんが解放されます。


「奴は全身に炎をまとうことができるんだ。火属性の俺よりも火力がある」


 頼んでもいないのにヨシムさんが解説を始めました。その間にもジーンさんとトレントの戦いはヒートアップしていきます。やがてトレントが根っこを動かして歩きだし、ジーンさんは火を噴きながら飛び回りはじめました。シュールです。


「そして体から出した炎を鎧の中で圧縮し噴射口から解放することで、移動と攻撃を行うんだ」


 トレントが燃えていきます。ジーンさんの攻撃がトレントの再生を上回っているようです。離れて見ている私たちの場所まで熱気が伝わってきます。私達はトレントの躍り焼きショーの観客と化していました。


「俺もいつかあんな高火力の魔法使いになるんだ」


 勝手になって下さい。



 そうこうしているうちにトレントが倒れました。それでもジーンさんは火炎放射をやめず、完全に灰にしてしまいました。戦闘力だけなら確実にAランク以上の実力です。こんな人材がいたとは。


 戻ってきたジーンさんの鎧は赤熱していました。鎧から陽炎ができています。鎧から生えている鉄板は冷却用だったんですね。しかし、熱くないのでしょうか。



 こうしてトレントは討伐されましたが、発生原因がわかりません。元が植物であったことから、この場所で瘴気によって魔物化したはずです。しかし、トレントが発生するほど濃い瘴気はありませんでした。


「クロークロウの発生原因もわかっていないのに」


 このままでは徹夜サビ残も夢ではありません。何か手掛かりはないでしょうか。


「ん、あれは……」


 私はトレントの灰に混じって黒い物体があるのを見つけ、拾ってみました。


「トレントの魔石……でしょうか」


 しかしその魔石は魔力が抜けてしまって色がありませんでした。通常なら魔物からとれた魔石には魔力が含まれているはずです。


「生まれたばかりだったからでしょうか」


 その後、結局何もわからず日も暮れたため、私は現場を後にしたのでした。



 ギルドに帰ると冒険者たちが飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていました。トレント討伐の報酬で宴を始めたようです。


「遅かったじゃん。先に始めてるよ」


 声の先を見るとエルーシャが酒を片手にテーブルに座っていました。すでに酔っているようです。


「エルーシャ、溜まっていた仕事はどうしたんですか」

「仕事が終わるまで食事抜きにしろっての? 餓死するね!」

「お酒なんか飲んだら仕事できないでしょうに」

「皆飲んでるのに私だけ我慢できないじゃん。明日からがんばるための英気を養ってるのよ。座りなって。マリーンの分も注文しておいたから」

「では食事だけ」

「だめだめ! ちゃんとお酒飲まないと! 仕事ばっかしてたらストレスが溜まっちゃうよ!」

「この後も仕事があるので」

「私の酒が飲めないっての!?」

「仕事が……」

「大将! 酒追加で!」

「仕……」



 気が付くと、私はテーブルで寝ていたようです。右手には酒の入った杯、向かいには突っ伏しているエルーシャ。周囲は冒険者が死屍累々。頭がガンガンします。朝日が眩しいです。


「やってしまった」


 私は酔いつぶれていたようでした。

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