浮気調査編

第2話 浮気調査

浮気調査編、全5話始まります。

補足:1イエーン=1円です

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 皆さんおはようございます。マリーンです。私は今ギルドのロビーで新しい依頼表を掲示しています。鋲を依頼表の四隅に刺す音が耳に響きます。気分は四肢に杭を打ち込む磔刑の執行人です。


 冒険者の方が依頼を受ける過程にはいくつか種類があります。最も多いのは、掲示板で磔もとい貼り付けられた依頼表から自分が受ける依頼を選ぶというものです。ですが掲示だけではすべての依頼が受注されず、いつまでも残ってしまう依頼があります。


 残った不人気な依頼は、ギルドから指名受注依頼を出すことがあります。これは、この依頼を受けてください、という依頼を冒険者に名指しで出す仕組みです。指名依頼の扱いなので、冒険者にとっては依頼を拒否すれば評価が減点されるというデメリットがあります。逆に受注すれば、元の依頼の報酬に加え指名依頼の報酬と評価が加算されます。


 他には非公開依頼というのがあります。これは依頼者の意向により不特定多数の人間に存在を知られたくない依頼の形式です。ギルドから冒険者一人一人に声をかけ、受けてくれた冒険者にのみ依頼の詳細を伝える方式です。



 そしてここに、一つの非公開依頼があります。内容は浮気調査。依頼主はジェミーというDランク冒険者の妻で、


「最近私に内緒でどこかに行っているみたい。本人は仕事って言ってるけど詳しく教えてくれなくて、怪しいから調べてほしい」


とのことでした。ちなみに私の権限で調べたところジェミーさんは最近依頼を受けていませんでした。


 浮気調査の依頼はあまり受けたがる人がいません。他人の痴情のもつれや修羅場に首を突っ込むことになるからです。さらに調査対象が同業者とあっては余計に受けてくれる人は少ないでしょう。受けてくれる冒険者を探すのは大変になると想像できます。まあ、そういうのは受付嬢の仕事ですので、私は指示を出すだけですが。


 依頼を出して数時間後、受付嬢の頑張りと媚びによってなんとか受注してくれる冒険者があらわれました。Eランク冒険者のマントンさんです。マントンさんは早速今夜から調査を始めることになりました。




 それから数日、マントンさんはギルドに戻ってきませんでした。定時報告の時間はもう何時間も過ぎています。もしかして何か事件に巻き込まれて身動きが取れないのでしょうか。心配です。夜遅くまでマントンさんを待っていた私でしたが、その日は諦めて帰宅することにしました。



 次の日、マントンさんを探して聞き込みをするも、手掛かりは得られませんでした。マントンさんはまだ戻りません。もしかしたらもう死んでいるのでしょうか。心配で三食とおやつしかのどを通りません。


「めずらしいね、マリーンが他人を心配するなんて」


 定食屋で晩御飯を食べていると同僚のエルーシャが相席してきました。


「そりゃ私だって心配くらいしますよ。自分がかかわった案件で人死がでたら夢見が悪くなります」

「おっと、自分の心配だったか。こりゃ失敬」

「ほんと失敬ですね。マントンさんの心配もしてます。今晩中に戻らなければ捜索依頼を出しますよ」

「じゃあ失敬ついでにお願いがあるんだけど、飯、奢ってくんない?」

「立ち去れ」


 その後泣きながら懇願するエルーシャの話を聞くと、どうやら詐欺の被害にあったそうです。有形資産として金塊を勧められ偽物を買ってしまったそうです。その額50万イエーン。


「転売すれば100万イエーンになるって、今買わないとすぐなくなるって……うぅっ……」

「どう考えても怪しいでしょう。それ」

「奢ってくれなかったらその辺の虫とか雑草とかミミズくらいしか食べるものがないの……」

「食事中にいやな想像させないでください……」


 私は結局食事を奢りました。




 エルーシャに食事をおごった帰り、私はある露天商に目がとまりました。道に広げた商品と思わしき金塊の数々が月明りを反射しています。夜に一人でこんなものを見せていればごろつき達が集まってきそうなものですが、命が惜しくないのでしょうか。


「これ、金ですか」


 私はなんとなく、その露天商の方に尋ねました。


「これは偽物だ。最近町に出回っていてな。知らずに買ってしまったのでこうして処分しているのさ」

「見せてもらってもよろしいでしょうか」

「ああ、どうぞ」


 私は手ごろさ大きさの偽金塊を手に取るとつぶさに観察してみました。見た目も重さも金そのものです。


「一つどうだい? 安くしとくよ。本物じゃなくても観賞用にはなると思うぜ」

「いえ、結構です」


 私は偽金塊を返すと露天商を後にしました。

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