第43話 大戦争に横槍をぶち込もう

 勇者共と行動を共にしだして、あれから9カ月か・・・。勇者達は様々な修羅場を潜り抜け強くなっていた。いや、人に牙をむく彼らはもはや勇者ではないな


「エルウッド、フランチェスカ、バルディ、準備はいいな」


「おう!」


「もちろん」


「いいですとも」


「よし。勇王とやらの演説が始まるぞ」

 

 私は魔鏡で人間界の様子を映し出し、音声を拾って聞かせてやった


”我が声に集まってくれた歴戦の勇者達!そしてそれら共に!時には陰から支えてた強者諸君! この平和と呼ばれる時代に自ら剣をとった諸君らを余は誇りに思う! …だが今は本当に平和なのであろうか? 否!断じて否である!


 先の魔王軍との戦争で我ら人類は一つの敵に向かって志を一つにしていた! だが!その思いが最高潮に達したその時!魔王軍はあろうことか一方的に戦争を放棄した! この叩きつけられた様な平穏に我ら人類はどうなったか!


 剣を取ると決めた物は行き場を失い!守ってきた商人や民衆も戦う事しか知らぬものを見下す様になった! これが平和と呼べるものか!これはまさに人類同士をいがみ合わせる為の平穏と言う名の魔族からの攻撃なのだ!! 


 その攻撃に対し、我らは魔界におもむく手段を持たぬがゆえに成す術がなかった・・・。だが!今は違う! この転移門を潜り魔界に進軍する時が来たのだ! 奴らに人類の力を思い知らせよう! 我らをエサと侮る奴らに!我ら人類の勇姿を焼き付けさせてやろう!”



 演説が終わると魔界への門が開き、人間達が魔界へ進軍して来た。その様子を見た勇聖者がため息をつく


「はぁ、さすがは勇王軍、知ってる顔が多いですね、勇者の大連合ですか…。そちらは如何ですか我が死」


「魔王軍の方には全くと言っていいほど知っている顔が居ない…、逃げたな」


 私の言葉を聞いてエルウッドが顔を背けながらも発言した


「そりゃあ、ここに集まったヤツ皆殺しにします宣言してたらなぁ、バルトの実力知ってる奴は来ないだろ」


 確かに私も・・・


”愛しき我がかつての下僕共よ!さあ、うたげの始まりだ! 私は元魔王シュエル・バルトである! この人類の反撃まさに行幸まさに至高! 我、この戦におもむき人魔区別なく殲滅せしめん! 私は問いたいのだ!見定めたいのだ! 魔王としてではない純粋な暴力としての私が何たるかを! 同じような思いの者あらば来られたし! 敵味方区別なく存分に殺し合おうではないか!”


 ・・・などと宣言したが


「ちゃんと集まる様にも通告したぞ、本当に恐れを成しているなら来るはずだ。後でで覚えておれよ…。つまらん、まったくもってつまらん・・・」


 私の態度を見てフランチェスカが戯言をぬかしてくる


「そんなパーティを開いて、友達が誰も来なくて不貞腐れた子供みたいな顔をしないでよバルト」


「不貞腐れてなどいない」


「虫けらを見る様な目をするのも止めてくれませんかね! 怖いよ本気で!」


 フランチェスカは怯えたが、バルディは笑っていた


「なんと言う殺気ッ、このまま殺してくれたらどんなに幸福か・・・。我が死よ、勇王軍の聖騎士隊が祭壇を配置したの確認できましたので、手はず通りに」


「うむ、一番槍はゆずってやる、行けバルディ」


「ハハ、私は元尖兵でもありますので慣れたものですよ。ではサックっと逝ってきますね」


 バルディは自分を殺害し、聖騎士隊が置いた祭壇から復活し行動を始めた


「何者だ!?」


「僕ですか? 今はそうですねぇ、死神みたいなものですよ」


 バルディは背負っていたアイアンメイデン針の箱人形の拷問具型のミキサーを振り回しながら暴れ回る。回復要員が真っ先に攻撃を受けたのだから少なからず混乱している


「攻撃成功だ。次」


「OK! 魔族軍と勇王軍の間に割り込むよ!」


 フランチェスカは錨を外し、私達も乗っている船を発進させ岩山を金貨をまき散らしながら滑り降りた。エルウッドが何やら喚いているが


「やっぱ船って山を滑り降りるもんじゃないだろぉ! 本当に大丈夫なんだろうなフラン!?」


「波に乗れるだけじゃあ船乗りとしちゃ三流さ、風にも乗れないとね!」


 その風は私が起こしているのだが、あえて触れないでおこう。しかし揺れが酷く乗り心地は最悪だ


「ズシャアアアアアアア!!」


 なんとか両陣営間に入り込んだ船は全砲門を開き無差別に砲撃を始める


「対魔弾、対竜弾、対霊弾、対人弾、良いとこ全部総取りで選んだ贅沢仕様、全部もってけ!」


「ドン!」「ドン!」「ドン!」「ドン!」「ドン!」「ドン!」


 見事な砲撃だったがそれでも両陣営の勢いは止まらず船まで接近を許してしまったが


「ピキッ!」


 ひび割れた船体から中の家畜が脱走し大混乱になった。ちょっと悲鳴に耳を澄ませてみよう


「なんで大量の羊がぁ!?」

「鶏に兜持ってかれた!」

「ん!? 首ごと持ってかれてる奴が居ないか?」


 なかなか効果的だった様だ


「ちょっとバルト!ぼーとしてないで次!」


「そうであったな、覚悟しろエルウッド」


 次の一手を撃とう


「なあ、本当に大丈夫なん・・・」


「黙って飛んで来い!」


 私はエルウッドを魔族軍のど真ん中に放り投げてやった


「うっわああ! ぐべし!」


 魔族もエルウッドに気付いた様だ


「なんだコイツ、鎧の種類がバラバラじゃないか」

「道具も大量に持って、戦場漁りか?」


「性能重視で選んだらこうなったんだよ! テメエらも肉ごと混ぜ合わせてバラバラにしてやる!」


 エルウッドが両手剣に改造した魔剣スコール振るい戦闘に入った、私は…適当に3人の邪魔にならない様に殺るか


「130… 158… 296! 見てますか我が死!」


 バルディが倒した敵を数えながら叫んでいた、続いてフランチェスカも


「968! 1305! 1840! まだまだ行くよ!」


 エルウッドも数えている


「3024、3704、4675! うりゃあ!」


 私もやってみるか


「3万7千! 12万8千! 17万8500! ふはは!吹き飛べ!」


 意外と楽しいではないかと思って油断していると、つい錯乱した兵士の雑音が耳に入ってしまった


「羊が110匹…、羊が203匹…、羊が・・・・」


「急に数を数えるのが馬鹿らしくなってきた・・・。むッ!」


 何となく放った魔力がマズい相手に当たり、魔力が跳ね返って来た。下半身が抉れたが直ぐに元通りに再生させる


「王自ら出陣か、勇者の王よ!」


「きさまが先代魔王か!」


 オリハルコンで身を固めた勇者の王、デューク・クプウルムが現れた

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