第42話 さあ、逝くのだ勇者諸君!
無事に宝島の宝を取り戻した女勇者
「目的の物を出よ。水飛沫が飛ぶだろうから、ちょっと下がっててバルト」
「うむ」
女勇者が指を鳴らすと、財宝が隠されていた大きな扉から船が現れた。船は複数の砲列を持ち、表面を金属の装甲が覆っており、重心が上にやや偏っている
「ガレオン船か」
「そう、バランスが悪くて転覆し易いデメリットもあるけど、私の能力じゃ関係ないわ。その気になれば一人で運用できるしね」
「なるほどな」
女勇者は船をしばらく眺めた後、私に言う
「ところでバルト、船なんか飛ばせるの?」
「お望みなら島ごと移動させても構わんぞ」
「いやそこまではしなくて良いけど、置き場所は?」
「ラギの工房の外だ。散らかってはいるが、ああ見えてかなり広い敷地を持っているからな」
「へー、じゃあお願い」
「よかろう。ところで先生とやらに返事をしなくて良いのか?」
「は?」
ギャリアンが亡き後、周りの新生魔王軍とやらは散り散りになり、お宝が解放されたのを見て海賊達が手を振っていた・・・
「あ~、やっぱ先を越されたか」
「どいつが開けたんだ?あ?」
「隠したフランチェスカ・レイル船長ご本人だと」
「そんな事より残りモン荒そうぜ!」
・・・その手を振っている海賊の中にティーチと言う男も混じっていた。というよりギャリアンの呪縛から解放されゴーストシップと化した船を漁っている
「凄い早さだったなフラン! 見物しようにも全然追いつけなかったぜ! はははは! ・・・・野郎共!!金目のもん取り逃すんじゃねえぞ! しばらくこの稼ぎで食いつなぐんだからな!!」
「「ういっす!!」」
全くあさましい事だと呆れていると、急に女勇者に胸ぐらを掴まれた
「何が…もう一度話せてよかったではないか…よ!!! ピンピンしてるじゃない!!」
「ん? 奴も死人だと思っていたのか? 死んだとは口にしていないぞ」
「ややこしい事言うんじゃない!!」
「あまり深く考えるな・・・、とも言ったはずだが」
「コイツゥはもぉおう!!」
女勇者は私を突き放すと腕組みして後ろを向いて言った
「もう!さっさと行くよ!!」
「うむ」
私が船と共にラギの工房まで転移した
「ドジャラララララ!」
陸地に転移されると同時に船の底から金貨が溢れ、船を支える台に早変わりする
「便利な事だな」
「私はほとんどこの能力だけで勇者と呼ばれてたからね。これ位こなせないと今頃は海の底さね」
「陸地に置けばトーチカにもなると言う事か。ではラギの元まで・・・、行きたい所だがまた散らかった様だな」
まあ、散らかった分、装備の開発が進んだと言う事だろう。残していった勇者共は無事だと良いのだが
「お~い、シュエルゥ! こっちこっちぃ!」
「む、ラギか。行くぞフランチェスカ」
「行くって・・・、うわわ!?」
私は女勇者を担いで、ラギにのこした目印を頼りに進んだ
「ドオオオオオオン!」
道中、何度か爆発にまっ込まれそうになったが…、何時もの事だ
「おっかえり~」
「ただいまもどった」
私は担いでいた
「ふぅ・・・。今日は久しく多忙であったな」
久しぶりのティータイム、だというのに女勇者が吠えてくる。この駄め
「何が多忙よ! 人をボロ雑巾の様に扱うんじゃない!!」
その吠える駄犬に二つの影が忍び寄り話しかける
「大丈夫か? 凄い怪我だな」
「それでも上半身の全面は無傷ですね、さすがビキニアーマー。あ、回復して差し上げますね」
影の1人が女勇者に回復魔法をかけ、女勇者は立ち上がり礼を言いながら振り向いたのだが・・・
「ありがとう、助かっ・・・・。何その格好!?」
・・・女勇者は奴らの格好に驚きの声を上げる。そのうちの1人の勇者が自慢げにポーズを取りながら言った
「へへッ、どうよ?この新装備。耐熱、耐寒、耐魔、耐衝撃に優れ、さらに身体能力強化までしてくれる特注品よ!」
「なんかデザインが統一されてないんだけど」
「ありもんで作ったからこうなっちまったらしい。でも着心地は最高だぜ! 身体が羽の様に軽いし、視野も広くて音の通りもいい」
「へえ、そうなの。そういえば私も
勇者の左右の篭手や具足、胴、兜などのデザインがバラバラな鎧姿も奇怪だが、その隣の勇聖者の格好も奇怪だった。身体に何やらざまざまな器具を巻きつけている
「ふふふ、キサラギさんが前に作った物らしいのですが、これがなかなか丈夫でしてゆずってもらったのですよ」
「シェルバドが前に遊んでて溶かしちゃったって愚痴ってたからね。もう溶けないように改良したやつよ」
私はラギの言葉であの時の事を鮮明に思い出した
「ああ、そう言えばその様な事があったな」
どうやら勇聖者も思い出したらしい
「懐かしいですねぇ・・・」
私と勇聖者の言葉に女勇者は過剰に反応する
「何が有ったのよアンタら!?」
だがそんな事はどうでもいい。決戦に備え、この勇者共を鍛えねばならんからな。そんな私の思いを察してか、勇者が話を切り出した
「なあ、新装備を慣らす意味でもどっかで試さないか」
「ほう、良い心がけだなエルウッド。どこでやるつもりだ」
「出来れば戦場になる魔界も偵察しておきたいんだが・・・、頼めるかバルト」
「そんな事、私に頼むまでも無い。すでに貴様らは来ているのだからな」
「へ?」
勇者の疑問にラギがキョトンとしながら言う
「魔界なんだけどココ。知らずに来てたの?」
「なにぃ!? じゃあもう魔界に来てたのか俺達!?」
私は魔鏡で外の様子を映し出しながら説明してやった
「その通り。そしてラギの工房の周りには、人間風情が魔王の友などけしからんと絶えず身の程知らずの魔族達が囲んでいる。彼らの相手をすればいいだろう」
ラギが何かの装置を取り出し・・・
「工房の敷地の外に出るだけだったら私が転送装置を使ってだしてあげるよん」
「でかしたラギ、やれ」
「はいな♪」
・・・起動させると、勇者達は怪しい光に包まれる
「ちょっと!私達も行くの!?」
「これはこれは、楽しみですね」
「待ってェ!あんな数に敵う訳ねえだろッ!」
不安そうにしているので私は、拝借した偉人の墓石とやらを取り出しねぎらいの言葉を送った
「ほんの数千体の魔族相手に怖気ずくでない。もし死ぬようであればこの墓に名を刻んでやる」
「ちょっとまッ・・・」
勇者は転送された。本番では楽しませてくれよ
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