第39話 魔王様のカリスマスキルで蹂躙なさるようです

 私は怪しまれぬ様、頭の足らん女のふりをしたのだがいまいち反応が悪い。やはり先ほどの行為がマズかったか? 仕方がない、思わず人類もその剣を止めてしまうと言われた下等魔族の様なつぶらな瞳で語り掛け、女勇者に助けを乞うとしよう


「どうしました、お姉様?」


 そう女勇者の顔を覗きこみながら呼びかけたが反応が無い。やはり魔王であった私に下等魔族の真似は無理があったか。しかし外野の方からの反応は有ったようだな


「お姉様だぁ?」


 その周りの反応に女勇者は焦って私の口を塞ぎ、小声で話しかけてきた


「ちょっとッ、お姉様って何よッッ」


 質問する相手の口を塞いでどうする? しかたない、脳に直接語り掛けるか


 ”下僕には姉御と呼ばれているだろう。ただ女性らしくアレンジしただけだ、何の問題がある?”


「こいつ直接頭にッ!?」


 ”そんな事より、私の口を塞いでどうする気だ?”


「アンタが余計な事を言わない様によッッ」

 

 ”ほう、だがいいのか口を塞いだ相手と会話して? 怪しまれてるぞ”


 私に顔を近づけ会話をしている女勇者を見て、ティーチが女勇者に語り掛けた


「何を喋ってるんだ?」


「えっ、ああ! さっきはちょっとやり過ぎてたから大人しくする様に言い含めていたのよ! はは!」


「何やら一人で話し合っているようにも見えたが・・・」


「えっと…、そう!なんとなく目を見ればわかるから!」


 女勇者は私から離れ弁明したが胴も歯切れが悪い。これではますます怪しまれるではないか


「ほう・・・、」


 だがこの男、勇者とは呼べるほどの力は無いがそれなりの実力者と見える。たしか心に直接語り掛けられる神官も人類に居たはずだから、下手に隠さんでもどうにでもなるのではないか? よし・・・、念話を使っていたことを正直に言ってしまおう。乙女らしく言うとこうかな?


「私とお姉様は・・・、心が通じ合っていますから!」


「な!?」


「ちょっとなんて事と言いだすの!?」


 ティーチは目を丸くし女勇者は焦ったが・・・。なぜか周りの人間が納得したようだ


「おう!やっぱりか!!」

    「男に絡む癖に、全く手を出さないから怪しいと思ってたぜ!!」

 「やっぱそっちの趣味か!」

         「おい!賭けは俺の勝ちだろ!賞金よこせ!」

 「なにぃ! おれも女好きなんじゃないかと言う方に賭けてたんだ! マスター!勝った金でボトル一つ!」

    「先に金を受け取ってから注文しやがれ!!!」

 

 周りはなぜか大盛り上がりだ。ふう、どうにかうまく誤魔化せたようだな。さて、このティーチとか言う男も騙せたかな


「そ…そうか、た、確かに、海賊連中の中からそんな女探しても、ッッ居ねえわな・・・ッッ、・・・ッッ! プッ!プフフ!」


 ティーチが笑いをこらえながらそう言うと、女勇者は起ち上り叫んだ


「違う! そうとも言えなくは無いけど違うから!!」


「アハハハハ!そうかい!! で、なんでお前の元部下がその女を襲ったんだ?」


「それは・・・」


 ティーチめ余計な質問をしおって。女勇者には任せられん!ここは私が言っておくか


「きっと、私がお姉様を奪い取ったと思って妬んでいるんです!」


 本当はコイツが勝手についてきただけなのだが、少なくとも連中はそう思っているだろう、嘘は言っていない。納得したかはどうあれ受けは良かったようだ


「ハハハハ! お前らそんな事で殺気立ってなのか!!」

  「情けねえぞ!! アハハハハ!」


「く・・・・」「・・・・」「どうすりゃいいんだ・・・」


 こちらをうかがっていた女勇者の元下僕連中も頭を抱えて沈黙してしまう。私を恐れての事でもあるのだろう。これで連中の動きを封じられ結果は上々だ


「ボトル三本、お待ち」


 注文していた酒が届くと女勇者は大人しく席に座った


「なんで、こうなるのよ・・・」


「元気をだして! お・ね・え・さ・ま」


「アンタのせいでしょうがぁ!!」


 この女、騒がしいぞと思っていると、ティーチが女勇者をなだめてくれた


「まあまあ落ち着けってフラン。で、どこでお二人は出会ったのかな?」


「魔族に囚われていた所をお姉様に助けられたんです! その魔物!私を釣りのエサにしようとしてたんですよ!」


 これは私が以前やっていた事だがな


「ほう・・・、魔族に囚われて生き残っているだけあって、中々タフだねお嬢さん」


 さすがにそこまでは誤魔化しきれないか。さっさと酔わせてしまおう


「それはどうも! さあ、このお酒をどうぞ! 私が割ってしまいましたから弁償です! 足りない様でしたらもう一本追加してもいいですよん!」


「はは。そんじゃ有難くいただくよ」


 ティーチが瓶を受け取り酒を飲み始めると、女勇者が真面目な顔になり話を切り出した


「そんな事よりもティーチ、船を一隻借りたいんだけど頼めるかい?」


「ほう、船員は用意できるのか?」


 大型船舶には当然それなりの船員が必要か。よし、ここはある程度正直に行こう


「私のお姉様の二人だけですから小船が良いのですが」


「ちょっとバ・・・、シュエルちゃん!?」


 女勇者が割り込んできたが無視する。・・・というかシュエルちゃんって呼び名はなんだ


「下手に人が居ると足手まといですし、見晴らしがよければ死角を無くせますしぃ~、小船の方がいいじゃないかとぉ。ね、お姉様」


”同意しろ! さあ!” と女勇者に念じてやると・・・


「こいつが言うなら・・・、まあそれで…」


・・・女勇者は折れてくれた。その様子を見たティーチは笑って応える


「ハハハハ!わかったわかった!小船ぐらいくれてやるよ! 俺は酒飲んで見物してるぜ! そんかわし、ボトルをあと10本な」


「お安い御用でぇ♪」


 私が酒を注文しようと席を立つと、女勇者はボトルを飲み干し、ゴンと机に瓶を置いて一言呟いた


「私にも一本ちょうだい」


 何を言いたいのかと思えばそんな事か、快諾してさっさと船代を取りに行こう


「はいは~い」


「・・・・酔わなきゃやってらんないわ」

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