第38話 バッカス&カトラズ

 女に姿になった私は女勇者と共にある場所の近くの沖合に転移すると、女勇者は水平線の先を見ながらつぶやいた


「本当に来ちゃった・・・」


「ここで間違いが無い様だな、貴様の記憶にある雰囲気と少し違うが。ではあの水平線の先にある小さな島がそうか?」


 そう私が聞くと、女勇者は常人では見えないであろう距離にある島をしかと眼でとらえ断言する


「ええ、あれが私の財宝を隠した島よ。通称宝島」


「ほうほう、あそこがそうか」


「で、あそこまでどうやって行くの? まさか海の上を走っていけなんて言うんじゃないでしょうね」


「できなのか?」


「出来ないわよ! 特にあんな荒れた場所なんかじゃね!!」


「うむ、それもそうだ」


 宝島の方を見ると確かに・・・・


「チャッハー! 死ねや人間!」

        「死ぬのはお前だ魔物共め!!」


「殺す殺す殺す!」

     「ふはは! 足掻いても無駄だ。貴様はこのまま塩焼きよ!ジュルリ」


 ・・・宝島を囲う様にして魔族と海賊が争っていた。形相だけ見ればどちらが魔物だか分からん程の激戦が繰り広げられている


「なんで魔物まで居るのさ・・・」


「わからん。取りあえず情報収集と船を調達するのが先決だろう」


「それなら近くに酒場があるよ、この様子じゃまだ有るか怪しいけどね」


「よし、まずそこに行こうではないか」


 私は女勇者の案内でその酒場とやらに向かった


「ここか」


「ええ。中に入りましょうか」


 バッカス&カトラズと書かれた看板の下を通り中に分厚い扉を開けると、酒場の中では大音量で鳴らされる楽器の演奏と、その演奏に負けじと張り合う様に荒くれ達が大声で戯れていた


「あんたら! まだ元気そうだね!!」


 女勇者が大声で話ながら中に入ると、海賊達が一斉に女勇者を方に目をむけた


「おお!! フランチェスカ!まだ生きてたのか!!」


「アタシももうアンタらは死んじまったと思ってたよ!! 私のお宝に手を出してヤツは!?」


 女勇者がそういうと一斉に海賊達は手を挙げて返事をする


「「へ~い!!!」」


「全員かい! で!無事に手に入れられたヤツは!?」


 女勇者がそういうと今度は一斉に手を下げてヘラヘラしだした


「「いねえぜ!!」」


「この身の程知らずの負け犬共!! 私が帰ったからにはもうボーナスは無しだよ!!!」


 今度はその声にそれぞれ笑いながら悪態をつく海賊達。こいつら何なのだ?


「ちぇッ! また一旗上げ直そうと思ったのによ!」

  「どんだけあの島に投資したと思ってる! つぎ込んだ金返しやがれ!!」

 「その前に俺に借りた金を今すぐ返しな。いまここで現物でな!」

「ちょ!俺の酒とるんじゃねえ! ・・・くそう。マスター!ラムもう一本!!」

        「ツケを払い終えたらやるよ!!」

「ああん!? どちくしょう!!!」


 騒がしい連中だ。その騒がしい中一人の男が手招きして女勇者を呼んでいた。女勇者も手を挙げて返事をしその席に向かった


先生ティーチ!久し振りだね! 元気してたかい!」


 女勇者はそう言いながら、席に先に座って酔いつぶれていた男を蹴って退かし、机に脚を放り投げながら座って、その足で机の前に乗っていた酒瓶やつまみを押しのけ床にぶちまけた。目の前の誘って来た男は少しも気にするそぶりも見せずに応える


「元気なもんか! もう干上がりかけてる! テメエだってそうだから引退したんだろ!」


 だが隣で座っていた男は怒り、女勇者に殴りかかろうとした。丁度いいので私もその男を殴り束して自分の席を確保する。恐らくそれがここの礼儀なのだろう


「ドカ!」

   「うっ!」


 そうして席に座ると二人はまるで気にしていないようで話を続けていた。私の判断に間違いは無かったらしい


「まあそうだね! 私の島に群がってるアレは何だい!?」


「勇王って奴が魔界に攻め込むって噂が出始めた頃から現れやがったのさ! そんでお前のお宝狙ってた連中とぶつかって四六時中やり合ってる!! まッ、おかげで魔物退治でどうにか食わしてもらってるよ! お前もそうなんだろ!?」


「こっちは別件だよ!!」


 周りの様子をうかがっていると、どうやら女勇者に用があるのはその男だけではないらしい


「姉御!お戻りになったんで・・・。ひぇいッ!?!?」


「ん?」


 男が話しかけてきたが、私と目が合うとすぐさま妙な声を上げて逃げてしまった。恐らく女勇者の元下僕だろう。他のそれらしい連中は身を潜めつつこちらをうかがっている。その様子に気付いたティーチとかいう男は女勇者に聞いた


「仲間連中と何かあったのか?」


「まあちょっとね・・・」


 まさか私に丸ごと船団を壊滅されたとは言えず、曖昧な返事を女勇者はしたが・・・


「・・・そうか、綺麗に分かれられるわけでも無いだろうからな。無粋な事を聞いた、お詫びに一杯奢ってやる」


 ・・・どうやら都合よく解釈してくれたらしい。ティーチはそう言って女勇者にグラスを渡して酒を注ごうとしていた。その事に私が気を取られていたと思ったのか、私を後ろから羽交い絞めにしてきた者が居た


「ガシッ!」


「姉御!逃げてください!! どうにか俺が時間を稼いで・・・」


 この男も女勇者の元下僕か。簡単に引きはがせるが、それでは芸が無い。私は酒を注いでいるティーチの瓶を奪い取り・・・


「バリン!!」


 ・・・羽交い絞めにしてきた男の頭に瓶を叩きつけて割って、私の首に絡みつく腕に瓶を突き刺した


「ザク!」

  「うぎゃあ!」


 男は痛みで腕を離し一目散に逃げて行ったのを見届け、私は瓶についた血を興味本位で味見する。うむ、この味、健康状態はあまり良くないようだな。しかしこのビンから漂う酒の香り、悪くない


「ビュンッ」

   「トンッ」


 私はその瓶をここの店主らしき男の側の壁に投げて突き刺し酒を注文した


「それと同じボトルを2つ・・・」


 私と女勇者の分だけで良いと思ったが、情報提供者の男の分も必要かと考え直し注文を改めた


「いや、3つだ。それで足りるな?」


「はいよ!」


 店主は壁からビンを引き抜き、中に入れておいた金貨三枚を受け取って店の奥へと消えて行った。


「その連れの女は何だフラン?」


「いや、この子は・・・、その・・・えっと」


 ティーチの質問に女勇者は狼狽えてしまう。このままでは私の正体がばれるであろうが。・・・・しかたない


「わたしぃ~、フランチェスカお姉様と行動を共にさせてもらってますぅ~。シュエルっていいます。よりしくね♡」


「「は?」」


 私が無害な人間に少しでも見える様に、頭の足りなそうな小娘の演技をしたらティーチだけでなく女勇者も固まってしまった。・・・恥を捨てて演技したというのに全く失礼な人間共だ

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