第27話 過ぎたるは猶及ばざるが如しにもほどがある

  たださまようのも暇なので、エルウッドを探してみる事にした私達


「トムにはアナタを気づかれない様に追う為って、気配遮断のアミュレットを持たせてたんだけど、大丈夫かい」


「問題無い、どうやらヤツはそのアミュレットを定期的に外している様だ。こちらに知らせるためだろう、最後の気配からそう動いてはいない」


 私の言葉を聞いて女勇者は舌打ちして吐き捨てるように言った


「ちっ!常に外して無いって事は気づかれたくない相手が居るって事だね、トラブル確定かいッ。急ぐよ!」


「ああ、そうしよう」


 急ぐと言うので転移魔法を使ってやったら・・・・


「グウォォォン」


「うぐ!?」


 ・・・・走ろうとした女勇者は転移先に居た羊に顔から突っ込んでしまった


「ボスッ」

  「めぇ~」


 しばらくの沈黙の後、やっと顔を突っ込んだ女勇者が口を開く


「なんで羊が・・・」


「転移魔法で移動させてやったからな。大丈夫かフランチェスカよ」


「獣臭い・・・。はじっめからこれ使えば国境越えも楽だったんじゃないの…」


「旅とは目的地にたどり着くよりも、その道中を楽しむものではないかな?」


「旅行気分のアンタにはそうかもしれないけどさぁ・・・。あ~油でべたつく、まったく畜生が」


 女勇者の言葉を聞いてバルディが冗談をポツリとと言った


「おや、迷える子羊に何たる暴言か」


「どう見ても子羊じゃなくて成体でしょ、ったく」


「シュ」

  「シュ」


 女勇者は香水を身体に吹きかけながら、時折体の臭いを確認している。帰郷面な事だ


「で、あるな。だがしかし、不注意からとは言え貴様に体当たりをされても無事とは、この羊ただ者ではないな」


「て、事はトムの仕業?」


 勇者の体当たりを受けて無傷の羊などそうそう居るはずがない。辺りを探せばヤツの痕跡を辿れるだろうと判断して気配を探っていたら、状況を飲み込めていない勇聖者が話しかけてきた


「我が死よ、この羊が何か・・・」


「静かにしろ、今耳をすませているところだ」


 周りの雑音の中から人の声を聞き分け、話の内容を聞いてみると・・・


「旅の人が畑仕事を手伝ってくれたおかげで作物が良く育ってくれただ」

  「ほんとだな」

     「大変だぁ!麦が丈夫過ぎて鎌の刃が通らねえ!」

「これじゃあ、収穫できねえっぺよ!」

   「なんじゃそりゃ!?」


・・・間違いなくヤツは居るな。次・・・


「最近さあ、ウチのニワトリが蛇にやられることが無くなったんだぁ」

「そうかぁ」

「それどころかこの間ヘビを食ってたくれぇでよ、一瞬コカトリスと見間違えただぁ」

「そんな元気になったべか」

「家出した息子にも見せてやりたかたっだぁ」

「まだ帰ってこねえべか」

「ああ、酔っぱらって着たモンを鶏小屋の近くに脱ぎ捨ててそれっきりだ」

「素っ裸で何やってだべかな」


・・・恐らくその息子はニワトリの元気な姿を嫌と言うほど見たであろう、遠くにも行っていない、ニワトリの血肉となりその卵が食卓に並んだのではないかな? 次だ・・・


「バルトの奴まだ来ないのか? もしかして見捨てられたのかな。フランの噂も聞かねえしどこ行ったのやら」


・・・居た!


「見つけたぞ、今飛んでやる」


「OK!」

「はい、我が死…」


 私達は勇者の元まで飛んだ


「うわ! なん…、バルト!フラン!やっと来てくれたか!」


「この辺りの小さな騒ぎは貴様の仕業かエルウッド。農夫が麦が刈れんと困っていたぞ」


「マジか、つい農家の血が騒いじまったけど、かえって迷惑かけちまったか。手伝てくる」


 「ジャキン☆」


 大鎌を持って行こうとする勇者を女勇者が止めた


「待ちなトム、こんな所で何してんのさ」


「ここで待ってれば来てくれると思ってな、噂は聞いてるだろ」


「噂って何さ…」


 まったく触れない事に我慢できなかったのか、勇聖者は二人の間に割り込んだ


「はじめましぃてぇえ!」


「はわぁ!? 勇王の手先か!!」


「バシュ」


 勇聖者は驚いた勇者に鎌で胴体から真っ二つに斬られてしまった


「あちゃあ…、やっちゃたか。うん、お見事」


「エルウッド、勇王とはなんだ」


「聞いてないのか? 名の通り勇者の王様だよ」


「ほう」


「名前はデューク・クプウルム、12代クプウルム王家正統後継者でありながら勇者と称される力を持つ変わり者だ。本当に知らないのか?」


「その様な者が居るとの知らせを何度か聞いたことは有るが・・・、少なくとも直に顔を合わせた事は無いな」


「まあ、大事にされ過ぎて戦場にはあまり顔を出さなかったらしいからな。んで、そいつが最近各地に散らばった勇者を集めてるんだよ、魔界に攻め込むためにな。強引過ぎてこちとら迷惑だってのに」


 ついに人類側にもそういった者が表れ始めたか


「ほう…、それは面白そうな事を聞いた」


「あまり驚かないんだな」


「魔界への門を開く装置を開発している情報は耳に入っていた、もう実用段階までに及んでいたとはな」


 女勇者がいぶかしむ様な目で私を睨んで言う


「まさか、その集まった勇者叩き潰すとか言わないだろうね?」


「まさか、邪魔などはしないさ」


 勇者は私の言葉を聞いて目を点にする


「へえ、てっきり面白半分に身の程知らずの勇者王さまにケンカ売ろう、とか言い出すと思ったが」


「喧嘩を売る?馬鹿な事を、獲物に選択権など与えぬさ、誰にも、何者であろうとも、我が破壊をただ受け入れればいい」


「え、それじゃあ?」


「魔界の門が開き、勇王軍と魔族軍が衝突した所を真横から潰す、皆殺しだ」


 ああ、本当に楽しみだ

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