第26話 狂犬の説法

 二人の喧嘩をなんとなく見守っていた私であったが・・・


「もう降参かい若作りジジイ・・・はぁはぁ」


「まだまだですよ磯臭い小娘が・・・はぁはッ」


 ・・・さすがにもう飽きたので止めるか。しかしヤツの名前は何だったか? たしか不死の能力を利用し情報を持ち帰る尖兵で…、そう確か


「……ジョルジュ・バルディだったかな? 狂犬バルディ…、フランチェスカ、もうそこら辺にしたらどうだ」


「わぁ~かったわよ」


 女勇者は回復薬を飲み傷をいやし


「しょうがないですね…、そいい!」


 勇聖者は墓石に頭を打ち付け自害し、新たな身体で戻って来て前の身体を蹴飛ばし塵に変えた。その光景を見た私は少し驚いた


「丈夫な墓石だな」


「アダアンタイトで出来ているそうですよ。詳細は失伝していますがユート・ピアースとかいう昔の偉人の墓だとか」


「ふむアダマンタイトか、記念に持って帰る事にしよう」


 私が墓石を意次元に仕舞うと女勇者が話しかけてきた


「元魔王が墓荒らし?」


「別の場所から移動させられただけの墓のオブジェだ、拝借しても問題無いであろう。眠ってるはずのその偉人の霊体の気配も無いしな」


「それよりバルト、国境が封鎖されて身動きできないのよ、助けてくれない?」


 女勇者に言葉に勇聖者が口を開いた


「ふむ、このままでは僕も咎められますしご一緒してよろしいでしょうか?と言うより逃がしませんが」


「貴様もついてくる気か、・・・・いいだろう」


 私の言葉に女勇者は怪訝な顔をする


「やけに素直ねバルト」


「今お前達から離れると、反って面倒なことになりそうだからな‥‥」


「へぇ…」


「ほう・・・」


 私達はこちらを隠れながら覗き込む気配を感じながら、不本意ながら勇者共と行動を共にしこの場を去った・・・・


              ・

              ・

              ・


 ・・・・そして、あの墓場の一件からしばらくたった後


「我が死よ、次はどこに行かれるのですか」


「目的などない、ただ気ままに進むだけだ」


 勇聖者バルディは私を我が死と変な呼び方で呼んでくる。ついでにこの女も国境はとうに超えたと言うのにまだ居る


「勝手気ままに流されるか、良いもんだね。海の上でやったもんなら命とりだけどさ」


「バルディは死にたがりだから良いとして、貴様は何故まだついて来るのだフランチェスカ」


「自由を探す為」


「自由?」


「私さ、自由な海に憧れて海賊になったの」


 コイツは一体何を言っているんだ?


「海が自由?何のなぞなぞだ。 人魚じゃあるまいし、人間など海では水面に浮かぶ小船の上でしか生きられぬ存在だ。例えるなら岩場の水たまりに打ち上げられた魚よ、魚がいつか海に帰らなけばならぬように、人は陸に戻らねばならん、己が生息圏に帰られなければただ死を待つのみであろう。自由などどこにあるのだ?」


「当時はそれが分からないぐらい若かったんだよ! そんな言われんでも、もう身に染みてるさね!」


「なんの引っかけも無しか、つまらん。おおかた酒場で飲んだくれてる海賊の男にフラフラついて行ったのだろう」


「そこまで男にだらしなくはないよ! それなりに堅実に海賊稼業やって来たわ!」


 喚く女勇者との間にバルディが割り込んで作り笑いで語り出した


「我が死よ、騙されてはなりません。この娘、自分が住んでいる場所以外なら案外楽に暮らしていけるんじゃね?…と、都会に無策に飛び出す夢見がちな痛い若者と同じ類の者でしょう、状況が許せば異世界にだって飛び出しかなません。私の20年の聖職者経験と130年の人生経験がそう囁いています」


「アンタも日中の甲板掃除を経験して見識を深めてみるかい? それとも一日中魚を捌く事から始めてもらおうかごら!!」


「ハハハ、ご冗談を、そんな毒にも薬にもならない己が苦労話ごと過去を美化し固執して、己が正当化を図ろうなど負け犬以下のクズの行いですよ」


「あんた本当に聖職者!?」


「自分の人生の苦労も含めた思い出などは自分にしか価値はありません。それでも他者に認めてもらいたいなら、そこから何かを自分で生み出さなければ本当に無価値になります。生と死、破壊と創造は表裏一体ですが、必ず労力が見合う物ではありませんのからね。幸福の為に行動する事と、苦労が幸福になるかは別問題、そして後者を期待するなど愚かな事です」


「急に聖職者らしい語り口調になったけど、何かズレてる気がするんだけど」


「失礼、色々ふわふわした話をして相談者を煙に巻くのは聖職者の常とう手段ですから、なれちゃってますので」


「ぶっちゃけやがったねコイツ・・・」


 女勇者は小さくため息をつき、バルディを放って私の方を見て言った


「まあ、話を戻すとアンタと一緒に居れば、自分の求めていた自由が何なのか見つかるような気がしてね、悪いけど嫌でも付き合わせてもらうよ隠居中の魔王さん」


「私はその様な事など知った事ではないし、見つかるとも思えんが勝手にしろ。先ほどの狂犬の説法の様な話でも答えを見出す者も居る。答えが無い物に答えを見出す者だからな人間は」


「意外と優しんだね」


「私はその答えが無い物に答えを見出そうとする様と、もし答えを見出す事が出来たのなら、その様なあやふやな物を嘲笑ってやろうではないか」


「酷い男だねアンタ・・・」


「正確には男ではなく両性だ」


 バルディは何か考え込んで、言った


「自由を求め…、まさか貴女も死を!?」


「ちがう! アンタと一緒にするんじゃなよ腐れ坊主が!」


 まったくやかましい勇者共だ


「バルトそんな事より良いの? トムの奴から全然連絡無いんだけどさ、そろそろこっちから探さないかい」


「そう言えばそうか、何か面白いトラブルに巻き込まれているかもしれんしな」


 エルウッドと別れてから、ちょうど一カ月はたったからな…。どうしている事やら


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