第25話 密漁厳禁

 魔王は僕を殺しては癒しを繰り返し、僕の死体の山を作った


「ふむ、流石にここまで分割してしまえば魂ごと消し去るのも容易か・・・、しかし少しやり過ぎたか?」


 増えれば増える程、分散され弱くなる僕を殺し続ける単純作業に、流石の魔王も飽きたのか首をかしげて僕らを見つめているのを、僕は何十…、もしくは何百にもなろうかという数の目と耳で感じた


「「ぅ…ぁ・・・」」


「そうかそうか苦しそうに、今お望みどうり楽にしてやろう!」


 僕の呻き声を聞き、魔王は笑顔で魔力を貯め始める。これでやっと死ねる


「ブォ…」


 僕を今まさに魔王が消し飛ばそう魔力を貯めた直後、生存本能が働いたのか分裂した全ての身体が魔力を貯め始めた始めた。僕は直ぐに止めさせようとしたが、僕が一体づつ止めるよりも早く本能が僕の意志よりも早く指令を出してしまい無駄になる


「くっ、魂が薄くなり過ぎて理性が飛び本能が目覚めたか! だが無駄な事よ、貴様以上の威力で撃ち返してくれるわ!!」


 しかし魔王はさらに力を貯め、僕らより強い力で消し飛ばそうとする。このままだと周囲40キロは吹き飛ぶのではないだろうか?


「ブオオオォォォ」


 だがそんな事はどうでもいい、この場所はもうジーナと良くピクニックに出かけた公園ではなく墓場、町にはもうあの頃に行ったパン屋も雑貨屋も無い、そこには人は住んではいるがもう別物だ。まとめて吹き飛ぼうと構う事は無い


「滅しろ、不死の勇者」


 僕と魔王、互いに魔力を放とうとしたその時


「タン!」「タン!」「タン!」「タン!」「タン!」

   「タン!」「タン!」「タン!」「タン!」

      「タン!」「タン!」「タン!」


「あ…」


 不意にハッキリとした僕の意識・・・、どうやら分裂した僕をを何者かが撃ち抜いてしまったようだ。この邪魔者は、事情も知らず高笑いしている。なんだあの女ぁ?


「はっはは! 珍しく危ないところだったねバルト!」


「このゴミ勇者2号め・・・・」


 魔王の知り合いではある様で、魔王は忌々しそうにその女を睨みつけていた。女の方は臆することなく魔王になにやらベラベラと話しかけている


「なに? 追い払った人間に助けられて不貞腐れてるのかい? あのまま放っておいたらアンタでも無事じゃあすまなかったろう」


「問題無い、周囲40キロを吹き飛ばす爆発を周囲400キロを吹き飛ばす威力で撃ち返すだけだ」


「それ私や町どころか、首都もまとめて全部吹き飛ばない!?」


「それがどうした、私は魔王だぞ。元だがな…」


 女は僕と目を合い、表情を曇らせた。やっと気づいたのかこのバカ者めぇ


「あ~…、さっきっから睨まれてんだけどさ、あれバルトのお仲間かい?魔族の」


「いや、人間だ」


「人間!? まって、あの目はまずいでしょう!無表情なのに目だけ見開いて殺気が籠ってるんだけど!」


「まあ実際、魔族と間違われて火刑あってるからな」


「あ、トムと同類かい」


「貴様とも同類だがな! なに自分は関係ない様な顔をしている」


「私はほら、火じゃなくて水責めみたいなもんだしね?」


 なにやら好き勝手喋っているお二人に僕は話しかける事にした


「魔王様ぁ・・・その女は?」


「貴様の同じ勇者と呼ばれていた者だ」


 なるほどそうか、そんな事より肝心な事を確認しないと


「ふぅん…。魔王様、僕あのままで行けば死ねたと思うにですが、どうですか?」


「魂ごと木っ端微塵に出来たであろうな」


「じゃあ!またお願いしま…」


「断る、流石にあそこまで刻むのは私でも面倒だ。また気の向いた時にしてくれ」


「気の向いた時ですか」


「またやる気になるかは保証しないがな」


「ふふ、やっぱり・・・・」


 女は僕と魔王の会話が理解できずキョロキョロしている


「なんだいなんだい、一体何の話をして・・・」


 女がなにかしゃべり終わる前に、僕は女の胸ぐらを掴んで吠えた


「よくも僕の死の邪魔をしてくれたな!この小娘が!」


「なんだいアンタ! 小娘って私とそんなに年が離れてる様には見えないけどね!」


「僕は130歳だ!」


「ひゃくさんじゅッ! アンタ本当に人間!?」


「僕は死ねないんだ! 肉親に先立たれ、幾多の争いで友は死に、妻との間に子供も恵まれず・・・、守り抜いた故郷も時の流れで形骸だけが残り中身は別物になって、今!やっと!死ねるという時に貴様はぁぁあああ!!」


「やろうってのかい! そんなに死にたきゃ私が何度でもぶち殺してやるよ!」


 僕と彼女は互いに拳を固め


「うおおおおお!!」


「うりゃあああ!!」


 殴り合いの喧嘩をはじめた。まづはあいさつ代わりの右ストレート


「ガシッ」


「なかなかいいパンチ打つじゃない、クソ神父!」


 そう言って小娘がカウンターで打って来たパンチを僕は口を開き勘で受け止めた


「あぐゥッ!」


「痛いじゃないのッッよ!」


 しかし小娘は噛まれた事にも動じず、そのまま手を引いて頭突きをかましてきた


「ぐう!があ!!」


 僕は膝蹴りで反撃するが、小娘の攻撃も止むことがない


「ガン!」

   「ガシッ」

 「バコ!」

   「バゴン」

 

 そうして僕らは殴り合いを続けたのだった・・・・、朝まで

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