私の天使 ~天使が散らした羽~
ラムレーズン軍曹
第1話
目覚めると、そこは病室でした。
ベッドの横につっ伏すように眠っていた私。
視界にはスヤスヤと眠る男の子がいた。サラサラの黒髪で呼吸器を口に当てていて、
細くて長いまつげ、顔立ちは凄く整っている。
…この子は誰だろう。
『…う、…ん……あれ。』
男の子が目を覚ました。
『…やっと、きてくれたんだね…。』
「……え、あの…ごめんなさい…私、なんでここにいるかわからなくて…」
『…僕のこと、覚えてない?』
「ごめんなさい…」
『……そっか…僕はずっと君のことを想っていたよ、
…かなで。』
…なんで、私の名前を知っているんだろう。
「えっ、と、…貴方は…?」
『……思い出せないなら、そのままの方がいい。』
「どうして?だって、
貴方は私のこと覚えているのに、
私は貴方のことを覚えていないなんて…
そんなの…私酷い人みたい…。」
『……思い出さなくていい。
これからきっと、それを思い出したことで
かなでは後悔するから。』
「なんでよ?」
男の子がはぁっと、ほっと一息つくように息を吐いた。
『…たくさん、いろんな話をしたね。
たくさん、楽しいこともした。
僕はかなでに出会えて幸せだった。
それだけが言いたくて、
会いたいなと思ってたらまさか、
本当に会いに来てくれるなんてね。』
そう言いながら、窓の外の空を眺める男の子。
何やら悲しそうな瞳をしている。
『僕…多分、今日で死ぬんだ。』
「えっ…」
『もう、身体が薬に耐えられなくなったみたいで。
だから、最後にかなでに会えて、
僕は幸せだよ。忘れられてても…
仕方ないよ、もうあれから5年は経ってるからね。』
5年…体の弱い男の子……
私は思い出した。
「せ、い…やくん……」
5年前、私は病院に通っていた。
まだ小児科だった私が検査結果を待っていると、
ベッドに車輪がついた状態で運ばれてきた男の子がいた。
それがせいやくんだった。
私はせいやくんが気になり、私から話しかけ、仲良くなったのだ。
せいやくんに出会って
二人で病院を抜け出して遊んだり、
入院した日はお泊まり会のように楽しく本を読んで過ごしたり、
いろんな楽しい話をたくさんした。
私が退院をしてその病院に行かなくなった時、
もう私の前にはあらわれないとせいやくんは言った。
なんでかときくと、
僕は身体が弱いから、
かなでが満足できるような遊びをこれからもできないからと言った。
その5年後の今、
せいやくんの最後の日を私は見ているんだ。
『思い出したの…?』
「私……ごめんなさい…忘れてて…ごめんなさい」
『…あーあ。』
せいやくんは頭を抱え、深いため息をついた。
『こんな姿、見せたくなかったな……
元からかっこよくないけど、
最後はかっこつけたかったな…』
「最後なんて言わないでよ!」
『今日で本当に、最後だよ。今までありがとう。』
「やだよ…なんでこんなのっ、見せるの…!」
せいやくんは
涙しながら首をふる私の頬を優しく触った。
『最後に……言いたかったことがあって…
呼び出しちゃったんだね。ごめん。
…一つだけ、僕のワガママを聞いてほしい。
……かなで…強く生きて、幸せになって。』
『それでまたいつか……
もし生まれ変わったら僕と…… 』
ーーー……
「…うう…ん………」
ふと目が覚めた。
「…なんか…凄く悲しい夢を見た気がする…。」
気のせい…かな。
歯を磨こうとベッドを降りると
足元に何かが当たった。
大量の酒と睡眠薬が散乱している。
「ああ、そうか…」
私は昨日
仕事のストレスで自殺をはかろうとしていたんだった。
…でもなんだろう。
私は生きなければならないと
心の中で何かが叫んでいるように感じる。
カーテンを開けると外は晴天。
眩しい太陽に向かって背伸びをし、
私は言った。
「……やーめた!
強く生きて、幸せにならなくっちゃ!」
私の天使 ~天使が散らした羽~ ラムレーズン軍曹 @otometo32
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます