第14話 三毛猫

 小学校からの帰り道だった。


 上空には雨雲が広がり、アスファルトと同じ色に見えた。


 能登の隣には、自分と同じようにランドセルを背負い、傘をさした望月の姿がある。望月の横顔は幼さが残っているものの、それとは対照的なほどに辛そうだ。その視線の先を能登も見つめる。


 そこは開いているのを見たことのないタバコ屋の前で、郵便ポストの隣。


 元の飼い主にも心があったのか、その段ボールは雨がかからないように店先のトタン屋根の下に寄せてあり、ボロの毛布に包まれていた。


 でも、そんなのが愛情になるわけがなかった。


 そんな優しさには、すべてが足りなかった。


 生気のない顔がそこにはあった。生きているとかろうじて分かるのは、その儚げな呼吸があるからだ。そこだけ時が遅くなってしまったかのように、ゆっくりとしたペースでその胸は上下運動を続ける。


 このまま雨脚が早まったら、段ボールは容赦なくずぶ濡れになるだろう。


 こんな小さな三毛猫が、この寒さに太刀打ちできるはずがない。


「私、この子を飼いたい」


「家族に相談しなくて大丈夫なの?」


 能登は不安そうに顔を上げ、隣の望月に伝える。


 望月はそれでも、その段ボールを抱え上げた。


「このままにしておけないよ」

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