第17話 答え

 電車が満谷駅に到着し、能登はそれに乗り込む。


 能登は定位置のつり革を握ってしまい、しまったと眉を寄せる。この位置から車窓を覗けば、否が応にも牧本と望月が視界に入ってしまうだろう。


 能登が立ち位置を変えようと振りかえるが、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あなた、ちょっと!」


 初老の女性が能登の手首を掴んでいる。緊迫した様子の初老の女性に対し、能登はまた間違いを犯したことに気付く。初老の女性は、能登と望月が知り合いだと思い込んだままだ。


 能登は素直に話してしまおうと思い、口を開いた。


「いや、私とあの人は」


 ――無関係なんですよ。そう続けようとしたにも関わらず、能登の声は初老の女性に遮られた。


「あの子、嫌がってるみたいよ?」


 能登は車窓に顔を向ける。


 マンションの2階の通路で、牧本と望月が取っ組み合っていた。望月が手を振りほどこうとするが、牧本の腕力には敵わないようだ。牧本が暴れる望月を無理やり抑え込もうとしている。異様な雰囲気であることが、ここからでも見て取れた。


 そんな光景を見ながらも、能登は戸惑っていた。


 私と望月は、今となっては他人のようなものだ。そんな私よりも、言い寄っている牧本の方が、望月に近い存在なのではないのか。私は彼女が望月だと分かっていたのに、それを誤魔化して過ごした。何も行動を起こさなかった私に、その資格はあるのか。


 初老の女性が、能登の手首を引っ張った。


「行ってあげなさい」


 能登の答えは決まった。


 急がなければ、扉が閉まってしまう。


「降ります!」


 大声を出しても、扉前の乗客はよそよそとしか動かない。


「すいません」


 能登はじれったくなって、乗客と体をこするようにして電車から降りた。


 ホームへ降りてからマンションを見上げようとしたが、停車中の車両が壁となってマンションの様子は分からない。2人の先ほどの様子から考えると、それほど余裕はないだろう。能登は改札へ向かって階段を登り始めた。


 遠ざかるホームから声が届く。


「駆け込み下車はおやめください」


 不意をつかれて笑いそうになるが、笑っている場合ではない。

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