第16話 筋

 能登は改札を抜けると、階段に最も近い乗車位置で電車を待った。


 屋根の向こうを見上げると、晴天の空が広がっている。今日は予報通りに晴れたため、彼女は手を振ってくれるだろう。


 ふと、彼女の部屋の扉を見つめて驚く。


 彼女の扉の前に、白いスーツ姿の男が立っていた。あんなに目立つ服装を好む人間が、そう何人もいるとは考えづらい。あの男は牧本だ。しかし、なぜ牧本があんな所にいるのだろう。牧本は薔薇の花束を抱えて、何かを待っているようだ。


 能登は胸が脈打つのを感じる。


 牧本の表情や言葉を思い出す。この中途半端な時期に休みを貰ったこと。同級生の結婚話を寂しく感じたこと。能登にどうしても謝りたいと考えたこと。そこには筋の通った意味があるのではないか。


「望月か」


 本当は、手を振る彼女の正体に気付いていた。


 だが、能登は目を瞑っていた。それは2人の仲が壊れた後の話。その後で牧本がどんな行動を起こしても、2人の仲は変わらない。それは牧本と酒を飲み交わした時に、本気で思った言葉だ。


 能登はマンションから視線を逸らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る