第2話
俺は、探偵。
ワープロにそう打ち込む。
タイプライターは意外とない。
あっても壊れてるかメンテの手間がかかることを知り、諦めた。
パソコンてのも味気ないし、秘密の保護てこともあるから、使わない。
そこで、中途半端にレトロなワープロにお鉢が回ってきたわけ、だ。
そんなことは、どうでもいいって?
確かに。
ならば、本題に移ろう。
俺は、探偵。
古今東西様々な探偵モノがあるわな。
それに憧れこじらせて本当に探偵になったてタマさ。
ところがどっこい、本当の探偵なんて貧相なもんだ。
元々は警察とか筋モンならまだ違ったかもしれない、それか探偵学校に通うか、現職に師事する。
その辺すっ飛ばして勢いで看板と登記だけして会社を作っちまったからどうしようもない。
コネとかツテってぇもんがない。
閑古鳥が鳴くなんてことわざ、ありゃ間違いだ。本当なかったら
閑古鳥が「無く」だ。
赤札で安く買ったソファーに寝転がり、TV買えないからラジオを隣のビルのwifi拾って又聞きよ。殆ど繋がらないが。
ドラマみたいに事件現場に颯爽となんてのは全く絵空事。
浮気調査?あるにはあるのかもしれないが、最近の夫婦てのは言うほど相手に執着してないようで、金が絡む話なら大手の探偵に行く。
猫探し?それこそ捨て置け状態だ。
なら、何の依頼が来るの?どうやって食べてるの?って?
簡単さ。
盗聴、だよ。
肥やしになりそうな所に種を、まく。
たまに芽が開く。そうなりゃ育てて収穫さ。
結局探偵てのは、強請のチンピラや当たり屋と大差なかった、てわけだ。
真っ当に全うしてる奴もいるかもよ?
ただ、俺はそうじゃなかったてだけのことで。
だから、まいた種が芽吹くか耳を立てながら、ワープロに記録か自伝めいたものを書いて、気晴らししているわけ。
そして、方々からの噂を拾って、面白そうなネタに気付いたもんだから、さて、お立ちあい。
何もいないはずの潰れた建物に人の気配がする。恐る恐る近寄ると、やっぱり何もいない。立ち去ろうとすると何かの視線。振り向くとやっぱり何もいない。薄気味悪いから、あまり近寄りたくない。けれど気になる。
交番から駐在が調べに向かうも何もない。
何かの勘違いだろうで終わっているらしいが、種まきしたあちこちから都市伝説のように入ってくるんだから、気にならないわけない。
車で行けない距離じゃない。
今、何の依頼も食いネタもない。
となると行くしかない、だろ?
憧れた探偵みたいなことが出来るかもしれない。
そんな淡い期待をよせながら、
カーキが褪せた、相棒のロングコートをカッコつけて羽織り、寒くなりだした町を歩いていく俺だった。
行くんじゃなかった
そんなことを一欠片も思いもせずに。
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