エピローグ
朝。空は綺麗に晴れて水のような光を落としていた。
制服に身を包んだ私はどこか背筋が伸びている。物事が真っ直ぐに見えて、どんなことにも動揺しないだろうという根拠のない自信があった。
これをなんというのか分からないけれど、大人になった気分だった。
校門が近づいてくる。すると、対面から来た人たちの一人に目が止まった。
相手も気付いて、親愛の微笑みを向けてくれる。
和だ。
私は少しの距離を駆け足で詰める。和は立ち止まって待っていてくれた。
「おはよう。和」
「おはよう。真央」
私たちは挨拶を交わすと、温かい感情に笑い合った。
二人で校門を潜る。
「昨日はありがとう。……色々。楽しかった」
「私も、楽しかったわ」
和はそう言って笑ってくれた。
私はみっともない姿を見せたし、和の負担になることもしたけれど、和は本当に楽しそうに笑ってくれた。負担になることでも自然に受け入れてくれている姿に、深い愛情を感じられた。
――好きだな……
自然に思ってしまう。隣を歩く和を見ると、抱き着きたくなった。その後和が頭を撫でてくれたら、幸せだと思った。
人前では迷惑になるし、流石にやらないけれど。でも結局、和が欲しいと言う気持ちは、まだ消えてくれていない。正直キスだって、したくてたまらなかった。
「今度、真央のお家にも遊びに行きたいわ」
和が横目で期待するように言った。
「いいよ。来て来て……ちょっと不安だけど」
嬉しかったけど、天然な母の顔が過ぎって、表情が濁る。
和はそんな私を不思議そうな顔で見て、私はなんでもないと手を振った。
友達としての線引きは、未だに辛い。でも、和もこうして、私を求めてくれる。
和の引いてくれた線と、それで私が受けた苦しみも、和の愛だと思えば、嬉しくもなれた。
私は軽やかな笑顔を浮かべて前に出る。
「和。私、今度和としたいことあるんだ」
「なに?」
楽しそうに聞いてくれる和に、私は振り向いて言う。
「一緒のベッドで寝よう!」
勢いよく言うと、和は微妙な顔をした。
「襲わないから」
私は笑って付け足した。
「本当に?」
和は懐疑的な視線を向けてくる。
「本当。信じて」
本当に、和が引いてくれた線を越える気はない。ただ、和を好きになってから、ずっと憧れていた事だった。
「やっぱり信じられない! わたし、まだ貴女についてないって確認してないもの」
「そのネタまだ引っ張るの!?」
ここまで一緒にいて信じられてなかったら大問題だ! 女として。
「じゃあ、見る?」
「うれしそうな顔しないの!」
和は頭を押さえた。今のは私もどうかと思う。でも、振って来たのは和だし。
そして、私のことで本気で思い悩んでくれる和の姿に、私は不謹慎にも嬉しくなる。
「はぁ……いいわよ。でも、わたしの言うことはちゃんと聞くこと。いい?」
「うん。分かった。……やった、和とベッドイン」
「真央? 今なんて?」
「何でもないよー」
目の前の昇降口に、私は逃げるように駆けだす。
「もう、本当に大丈夫かしら」
後ろから聞こえる心配する声に、私は和に見えない位置で笑みを浮かべた。
この特別な気持ちは、いつまでも特別なままではないのかもしれない。でも、和と紡ぐこれからの時間は、その気持ちが途絶えても、ずっと特別であり続けるのだろう。
和は私の未来を思ってくれた。その愛は、これからの未来の全てに行きわたってくれる。和は私の人生で、特別な存在になり続ける。
だから私は安心して、今日も和に甘える。
永久の花 月浦賞人 @beloved
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