第九話 ヤマンバと四枚目の御札

ヤマンバと四枚目の御札 (1)

 その晩、優真ゆうまはなかなか眠れませんでした。

 寝る前にママが読んでくれた絵本の終わりが気にいらなかったのです。

 その絵本というのは「ヤマンバと三まいのおふだ」という昔話でした。



 昔々、山寺に和尚さんと小僧さんがいました。

 ある日のこと、小僧さんは一人で山に栗拾いにゆこうとします。でも山には怖ろしいヤマンバという魔物がいるのです。心配した和尚さんは小僧さんに魔除けのおふだを三枚くれて送りだしました。


 山で夢中で栗を拾っているうちに、小僧さんは山奥深く入り込み、そこで一軒の家を見つけます。その家には年とった、ばあさまがいて、小僧さんが来たのを喜び、栗や芋をごちそうしてくれました。美味しいもので腹一杯になった小僧さんは眠くなって寝てしまいます。


 夜中に目が覚めた小僧さんは、ばあさまが魔物のヤマンバだと気づいて逃げるのですが、ヤマンバは小僧さんをどこまでも追ってくるのです。


 小僧さんは山道を死にものぐるいで逃げながら、和尚さんのおふだを一枚うしろに放りました。すると出来たてふかふかの饅頭の山になり食いしん坊のヤマンバを足止めしました。二枚目はお酒の樽になり、お酒の好きなヤマンバの足をとめさせました。三枚目のおふだが川の流れになったその隙に、山寺に逃げ込んだ小僧さんを、和尚さんは急いで戸棚に隠します。


 そして、山寺までやってきたヤマンバを素知らぬ顔で囲炉裏端に案内すると、ヤマンバの変身の術をおだてて、小さな豆に姿を変えたところで、パクリと食って退治してしまうのでした。めでたしめでたし。



「ヤマンバがかわいそうだ」と一人っ子の優真は思ったのです。

 小僧さんに悪いことをしたわけじゃないのに。栗もお芋も貰ったのに。

 もしかしたら仲良くなりたかっただけかもしれないのに。僕だったら、どうするかなあ。やっぱり逃げちゃうかなあ。

 ひとつ寝返りをうつと優真は小さな寝息を立てはじめました。

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