十四 最強イヌとサルとキジの巻

 赤鬼の目玉がギロリと太郎をにらみました。


「ほほう。こいつはまた旨そうな子どもだな。どれ、ひとくち味見をするか!」


 その赤松の枝のような腕をのばして太郎をつまみ上げると、赤鬼は大きな口を開けました。


「たすけてえ!」


 太郎がさけびました。そのとき。

 自称イヌが、稲妻のように飛びだしました。


「太郎さんをはなせ!」


 赤鬼の岩より硬いすねに、剣のような牙が突き立てられました。


「いてえー!!!」


 赤鬼が悲鳴を上げて太郎を放り出すと、自称キジがひらりと舞い上がり、空中で太郎を受けとめました。


「この外道げどうめが!」


 自称キジが呪文を唱えると、赤鬼の腰巻が燃えあがりました。


「あちちち!!!」


 赤鬼はその火を消そうと、床を転げまわりました。


「よくも、太郎さんを食おうとしたな!」


 自称サルは、赤鬼の落とした金棒を振り上げると、目にも止まらぬ速さでブンブン回したので、鬼たちはおびえて逃げ惑いました。


「おまえら、何をしてやがる! たかが、イヌとサルとキジじゃねえか! さっさと、やっつけろ!」


 すねとお尻の痛みに顔をゆがめた赤鬼が、仲間たちをけしかけます。

 青鬼と黄鬼と緑鬼と黒鬼は「そう言われてみれば、そうか」と思いなおして、三匹に襲いかかりました。


 鬼の岩屋に、凄まじい悲鳴がこだましました。


 青鬼は、自称イヌに咬み裂かれて血だらけになり、黄鬼は、自称サルの金棒の直撃をひたいに受けて目を回し、緑鬼は、自称キジの呪文でダンゴムシに変えられたあげく踏まれ、黒鬼は、泣いて赤鬼の後ろに隠れました。


「こいつら、本当にイヌとサルとキジなのか?」


 鬼たちは恐れおののきました。


「一匹たりとも逃がすものか。八つ裂きにする!」


 鬼の血を牙から滴らせたオオカミが、姿勢を低くして次の狙いをさだめました。


かたぱしからケツの穴に手ぇ突っ込んで、生きぎもひっこ抜いて、喰いまくってやる!」


 金棒を肩に担いだカッパが、ウヒヒヒと舌なめずりしました。


「生きたまま燃やす!」


 いんを結ぶテングの背後から、妖しげな赤紫の陽炎かげろうが立ち昇りました。


「たすけてえ!」


 鬼たちが泣き叫びました。



 そのとき。



「やめて! イヌさん! サルさん! キジさん! みんな、やめて!」


 太郎が両手を広げて、震えあがった鬼たちを背にかばいました。


「ここにいるのは、鬼みたいに見えるけど、きっと、ほんとうは、違うんだよ!」

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