四 狼峠のイヌの巻
さっきの岩棚は「
今がいまにも、太郎の
「たすけてえ!」
宙に浮いた太郎の
「あれえ?」
驚いている太郎をそっと草むらにおろすと、オオカミは牙を
「俺はオオカミじゃないよ!」
「ええっ! ほんとうに?」
太郎は目を
こんな
「ほんとうだよ! わんわん!」
オオカミはあおむけに寝ころがり、可愛らしく前足を折ると、なるべく無邪気に見えるように、舌を
「よく間違えられるけど、俺はイヌだよ。わんわん!」
「なんだあ。イヌだったのか」
あははと笑った太郎は、
「ごめんね。イヌさん。僕、オオカミって見たことないから間違えちゃった」
「いいさ! 気にするなよ。わんわん!」
自称イヌは愛想良く吠えながら、遠い目をしました。
――なりゆきで嘘までついてしまったけれど。どうすれば、あの丸いものが貰えるのだろう。もはや俺には見当もつかない。
「イヌさん、どうしたの?」
オオカミのふかふかした胸の毛に触りながら、太郎が訊きました。
「なんでもないよ。わんわん。――ところで、ぼうやはどこにいくんだい?」
寝ころんだまま、オオカミは太郎を見上げて訊きました。
「クネンボみかんを取りにいくの!」
太郎は元気に返事をしながら、いま駆けおりてきた
「でも、道が分かんなくなっちゃった」
「それなら俺が送ってやるよ」
こんな小さい子が、山で迷子になったら大変です。
責任を感じたオオカミは、くるんと起き上がって風の匂いを嗅ぎました。
「クネンボみかんは、あっちだ。ついてこい」
「うわあ! イヌさん、ありがとう!」
太郎は顔をくちゃくちゃにして笑って、オオカミにお礼を言いました。
「いいのさ。わんわん」
太郎に背を向けたオオカミは、くっと涙をこらえました。
ほんとうはこう言いたかったのです。
――送ってあげるかわりに。ひとつ、わたしに、くださいな。
すると。
オオカミの鼻先に、竹の皮の包みが差しだされました。
「イヌさん。きびだんご、あげる!」
「なんだって?」
オオカミは息が止まりそうになりました。
――くれるの? ほんとに?
「助けてくれた、お礼! それに、僕、おなかすいちゃったんだ」
太郎はうふふと笑うと、草むらに坐りこんで包みを開けました。
「ありがとう! ぼうや!」
オオカミは千切れるほどにシッポを振りました。
「僕、太郎だよ」
太郎はきびだんごをひとつ
「おいしい! これ、おいしいぞ!」
きびだんごの美味しさに、オオカミは耳の先からシッポの先まで震えました。
「おいしいね! いっぱいあるから、もっと食べなよ!」
「ありがとう! 太郎さん!」
こうして二人は友だちになりました。
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