三 九年母山へようこその巻
クネンボみかんの木は、おばあちゃんがいつも洗濯をする小川を、川上へさかのぼった山の奧に生えています。
白い
森の
「うわあ! 高いなあ!」
風がひゅうと吹いて、おでこの汗を冷やしました。
耳を澄ますと、深々と茂った紅葉の向こうから、清水のせせらぎが聞こえます。
クネンボみかんの木までは、まだ遠そうです。太郎のおなかが、クウと鳴りました。
太郎は地べたにすとんと腰をおろし、背中の包みをほどきました。
竹の皮の包みをひらくと、一口で食べられる大きさのきびだんごが、ぎっしりと並んでいました。
「やったあ! いただきまーす!」
太郎の指が、はしっこのひとつを
背中の茂みが、ガサリと鳴りました。
「あれっ?」
太郎が振り向くと、
「うわあ。助けてえ!」
太郎はきびだんごの包みを抱いて立ちすくみました。
茂みから、のそりと姿を現したのは、太郎の十倍はありそうな、大きな四つ足の
これが、おばあちゃんの言っていたオオカミに違いありません。
オオカミは太郎の手元を見つめて、たらりと
――この子の持ってる丸いやつ。なんて美味しそうなんだろう。
でも。「それ、ちょうだい」 なんて、恥ずかしくて言えません。どうしよう。
オオカミが、もじもじと
「おいおい、ぼうや。どうしたの?」
オオカミはあわてて太郎を追いかけながら、地声の低い声でうなりました。
「だって。オオカミを見たら逃げろって、おばあちゃんが言ってたもの!」
きびだんごを抱きしめて走りながら、太郎は泣き声で答えました。
――逃げないで。おねがい! だめなら、一個、置いてって!
オオカミは、心の中で叫びました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます