二 はじめてのお出かけの巻

「それなら、お腹がすくだろうから、きびだんごを持ってゆきなさい」


 おばあちゃんは、よっこいしょと縁側えんがわに上がりました。


「きびだんごがあるの? やったあ!」


 太郎はピョンピョン、おばあちゃんのまわりを跳ねまわりました。おばあちゃんのこしらえてくれるきびだんごといったら、それはそれはおいしいのです。


「おばあちゃんのきびだんご! ほい! 日本一のきびだんご! ほい!」


 太郎の歌に、おばあちゃんはおなかを抱えて笑いました。

 きびだんごは、太郎の喜ぶ顔が見たくて、朝早いうちにこしらえておいたのです。


 おばあちゃんは、きびだんごに黄粉きなこをまぶし、竹の皮を広げて大事にくるみ、その上から洗いざらした布で包みました。


「これ、太郎や。踊らないで、じっとして!」


 まりのようにはずむ太郎をつかまえて、その小さな背中に包みをくくりつけると、おばあちゃんは太郎のほっぺを、きゅっと手のひらで挟みました。


「太郎や、よくお聞き。山で恐ろしいのはオオカミとカッパとテングだよ。もしも、オオカミとカッパとテングを見たら、走って逃げるんだよ!」


「オオカミとカッパとテングだね。わかったよ、おばあちゃん!」


 太郎は、つま先で足踏みしながら、元気にうなずきました。

 オオカミもカッパもテングも、太郎は一度も見たことがありませんでした。


「じゃ、行ってきます!」


「こら! 太郎! さいごまで聞きなさい!」


 猫のようにすり抜けようとする太郎を、おばあちゃんは小脇に力を入れて押さえ込みました。


「山で一番恐ろしいのは、山奥の岩屋のオニなんだよ。面白がって見てないで、走って逃げるんだよ」


「オニがいたら、見てないで逃げるんだね。わかったから放してよ、おばあちゃん!」


 太郎は短い手足をぱたぱたして、おばあちゃんの手を振りほどこうとがきました。


「それからね。山は早くに日が暮れる。明るいうちに、お天道様が沈むまえに帰っておいで!」


「はい! 明るいういちに帰ってきます!」


 おばあちゃんが手をはなすと、太郎は駆けだしました。


「これ、太郎! 裸足はだしはだめ! 草鞋わらじをはきなさい!」


「はーい!」


「ほれ、足をだして! おどらないの!」


「あひゃひゃひゃ! くすぐったいよう!」


 草鞋をはかせてもらった太郎は、すずめの子が飛び立つように表にとびだしてゆきました。


「行ってらっしゃい! 気をつけるんだよ!」


「はーい! 行ってきまーす!」


 きびだんごをかついだ小さい背中は、たちまち見えなくなりました。

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