5 家族は味方

「うちのおじいさんとおばあさんには手を出さないって約束じゃないの!」


 ちゅんは、わなわなと震えてヒヨドリをにらみつけました。


 砂を払って立ち上がったヒヨドリの目は怒りに燃えています。


「うちのってか? おう。誰に向かってものを言ってるんだ」


 ヒヨドリの後ろには仲間の盗賊たちが集まってきました。


「かわいそうだと思って養ってやりゃあ、いい気になりやがって!」


「前から生意気なスズメだと思ってたんだ!」


「朝っぱらからチュンチュンうるさいし!」


「やっちまえ!」


「あんたたちこそ!」


 ちゅんはおじいさんとおばあさんを小さな背にかばって、涙目で言い返しました。


「義賊だったスズメのお宿を、お父ちゃんが死んじゃったら、自分たちのものにしてっ! 小悪党の寄せ集めの盗賊団に、落ちぶれさしちゃったくせに!」


 これを聞いて、盗賊の小鳥たちが一斉に鳴き騒ぎました。


「小悪党の寄せ集めとはよく言った。覚悟はできてるんだろうな」


 ギーッ! とヒヨドリが凄むと、ちゅんの足がカクカクと震えました。


 三人を取り囲んだ盗賊たちは、いまにも襲いかからんばかりです。

 おじいさんは、おばあさんを抱きしめて目を閉じました。

 そのとき。


「シュベックポン!」


 頭上の梢から不思議なクシャミが聞こえました。


 盗賊たちはそちらを見上げたまま、のけぞりました。

 山桜の枝という枝に、数え切れないほどの猫がのっていました。


 白猫、黒猫、ぶち猫、赤虎、茶虎、黒虎、さび猫に三毛猫。

 まるで猫の木のようでした。


 猫たちが一斉にゴロゴロと喉を鳴らすと、その震動で山桜が揺れはじめました。

 その有様は山桜が怒りに震えるかのようで、小鳥たちは浮き足立ちました。


 坐っていた梢をぽんと蹴った寛吉ひろきちが、ちゅんの傍らに音もなく降りたちました。


「――がんばったな。子スズメ」


 低い声で寛吉がつぶやきました。


「寛吉さん!」


 ちゅんは嬉しそうに ぶち猫を見上げました。


 寛吉が大きく伸びをするのが合図でした。

 色とりどりの猫たちが雨のように降ってきたのです。


 猫たちに追い散らされて、スズメのお宿盗賊団は総崩れでした。

 しかし、親分のヒヨドリは逃げる間際に、ちゅんをその足につかみました。


「こいつの命が惜しければ、スズメのお宿へ来い!」


 気を失ったちゅんをつかんだまま、ヒヨドリは空へ舞い上がりました。


「ふくべを忘れるなよ!  それと猫は連れてくるな!」


「おのれ、待て!」


 追い縋るおじいさんを地上に残して、盗賊はたちまち飛び去ってしまいました。


「ちゅん……。うちのちゅんが……」


 おばあさんはへたへたと坐り込みました。


「よくも、ちゅんを!」


 おじいさんが唸りました。


「スズメのお宿というのは、どこにあるんだ?」


「裏の竹藪です」


 すかさず猫が答えました。


「よし!」


 おじいさんは立ち上がりました。


「おじいさん。行くんですか?」


 おばあさんがおろおろとおじいさんを見上げました。


「行くしかあるまいて。スズメのお宿とやらに――」


 おじいさんは、節くれ立った指で、そっとおばあさんの頬に触れました。


「うちのちゅんを連れ戻さなきゃ。夕飯の支度を頼むよ。今晩は一杯つけておくれ」


 おばあさんはたもとで目頭をぬぐって、うなずきました。

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