4 スズメのふくべ

「義賊がいったい何の用だ。こんな貧しい家に」


 おばあさんを痩せた背中にかばいながら、おじいさんが言いました。


「とぼけてもらっちゃ困るなあ。じいさんよ」


 ヒヨドリは肩を揺すって二歩三歩、おじいさんとの間合いを詰めました。


「幻のお宝。『スズメのふくべ』を隠そうたって、そうはいかねえ!」


「ふくべ、ってなんだね?」


 おじいさんは真顔で訊きました。


「そこからか! ヒョウタンだ、ヒョウタン!」


「なるほど。ヒョウタンか。うむ。そんなものは無い!」


「そうともよっ!」


 おじいさんの陰から、おばあさんも言いました。


「スズメのふくべっこなんて、ここには絶対無いんだからねっ!」


 正直な目が泳いで、横目が土蔵を凝視しています。


 ヒヨドリがケキョッとほくそ笑みました。


「なるほど。あそこか」


 おじいさんが驚いて、おばあさんに向き直りました。


「捨てたんじゃなかったのか? あのヒョウタン?」


 おばあさんが気まずそうにうつむきました。


「だって、ああいう古いものは、なかなか捨てづらくて……」


 おばあさんがぼそぼそと言いわけすると、おじいさんは微妙に傷ついた顔をしました。


「――場所ばしょふさぎだから捨てろ、ってあんなに云うたろうに」


「――だって先代のばあちゃんが、これだけは絶対捨てるなって……」


「じいさん、本当に知らなかったのか?」


 さすがのヒヨドリもあきれ顔でした。




 『スズメのふくべ』は、おばあさんの実家に伝わる家宝でした。

 言い伝えによると先々々々代のばあさまの従姉が、怪我をしたスズメを拾って介抱してやったら、スズメが御礼にヒョウタンの種をくれたとか。

 育てたヒョウタンからは、お米が泉のように吹き出し、ばあさまの家は長者になったそうな。


「――あんな汚いヒョウタン、取っとくから、こんな目に遭うんじゃぞ」


「――でも、あのヒョウタンの口を開けたら、お米がザクザク出てきたっていうし」


「――そんなはなし、嘘だから」


「――本当だったらどうするね」


「――じっさい、やってみたのかい」


「――恐くて、できるもんかいな」


「ヒソヒソ、口喧嘩くちげんかするんじゃねえ!」


 ヒヨドリがキレて怒鳴りました。


「さっさと土蔵を開けやがれ! ちゅん!」


 おじいさんとおばあさんが驚いたことに、土蔵の鍵を引きずって子スズメのちゅんが縁側に出てきました。


「ちゅん?」


 ちゅんはヒヨドリに鍵を渡すと、二人に背を向けました。


「どうして、ちゅんが――」


 呆然とするおじいさんに、ヒヨドリが言い放ちました。


「こいつは最初から俺たちスズメのお宿の一味なのさ!」


「なんだって? 嘘でしょ? ちゅん? こんな奴らの仲間なわけ、ないよね?」


 おばあさんが目に涙を溜めて、ちゅんの小さな背中に問いかけましたが、ちゅんは何も答えませんでした。ただその翼は微かに震えていました。


「こいつの親は元はスズメのお宿のかしらだったんだが、下手へたを打って、取っ捕まって、焼き鳥にされちまったのさ。哀れな孤児みなしごになったこいつの、親代わりが俺ってわけよ」


 ヒヨドリが得意そうに語る間にも、土蔵は小鳥たちの手で開けられ、大事にしまっておいた荷物が、次々に持ち去られていきました。


「スズメのふくべだけじゃなかったのか!」


 おじいさんが怒りました。


「これじゃ、ただの盗人じゃないか! 義賊が聞いて呆れるよ!」


 おばあさんがわめきました。


「黙って見てろ。ばばあ!」


 ヒヨドリがおばあさんの頬を翼で打ったので、おばあさんはよろめいて膝をつきました。


「おばあさん! 大丈夫か?」


 おじいさんが駆け寄るのと、ちゅんがヒヨドリに体当たりするのが、一瞬の出来事でした。

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