2 ご相談はお気軽に

「お稲荷さんの、どこが保険だ!」


 俺は立ち上がってキレた。


「宗教法人をかたるのは、弊社のれっきとした経営方針です」


「いま、カタるって、言ったよね?」


 あまりの事態に握った拳がふるえた。


「すこし落ち着きましょうか」


 ――なんで慈しむような目で俺を見る?


「だいたい連絡係ってなんだよ?」


 叫んだ声が裏返ってしまった。


「弊社は独自の組織で運営しております。連絡係は、おつかいとも申します」


「ふざけんなよ! 社長は教祖、社員は信者、営業は布教、利益はお布施で押し通すって、アレだろ?」


「深山様、なにか誤解されておいでです。やましいことなど考えておりませんのに」


 信太の悲しげな表情が真に迫っていたので、俺はひどく後ろめたくなった。


「え? そうなの? ごめん。俺はてっきり……」


 すると信太が誇らしげに胸を張った。


「弊社の社長は御本尊。社員は眷属けんぞく。営業はお祭りです。利益なんぞ求めません。ただし御利益ごりやくはございますよ」


 信太がクスッと笑った瞬間、俺は野郎の胸元につかみかかった。


「ケーン、ケーン。苦しい! おやめください。深山さまっ!」


「てめ、ふざけんなよ!」


 耳鳴りがする。俺は自分が怒りで爆発したかと思った。


「ケンゾクって、なんだよ!」


「ちょんちょん書いて、二を書いて、人を書いて、目です」


「書き順じゃねえよ!」


「なんで怒ってるんですか?」


「アヤシすぎるだろ!」


「健全な企業の節税対策じゃありませんか」


「そんな主張が、確定申告でまかり通るか!」


「ぬかりはございません」


 信太が艶然と頬笑むと、釣り目が糸のように細くなった。


「この目を御覧下さい」


 うっかり信太の色素の薄い瞳を覗きこんだ途端だった。

 えも言われぬ信頼感が胸に涌きあがったことを、否定はすまい。

 旨い酒を飲んだような心地がして、ふわふわとした多幸感に満たされた。


 ――怪しいけれど圧倒的に頼もしい。たとえ罠だとしても話を聞きたい。


 ぬぐい去られたように、さっきまでの不愉快な感情が消えた。

 信太に招き寄せられるままに、俺は二人掛けのベンチの隣に腰をおろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る