4 クシャミの極意

「いかにも左様さようでござる」


 餅之助は、きらきらと瞳を輝かせました。


「ウグイスのホウ ホケキョウは、ホウと吸い、ホケキョウと吐くのでござる。ハアと吸い、ハックションと一気に吐くクシャミは、まさしく、ホウ ホケキョウの極意ごくいでござる!」


「これが極意い?」


 竹蔵さんは目を白黒させました。


「されば! なにとぞ、息の吸うところから、ゆっくりと、もう一度!」


「無茶言うない。助けてやりたいのは山々だがよ、教えられるもんならともかく、クシャミなんて、おまえ……。あ、また鼻がムズムズ……」


「なるほど、鼻の穴をピクピクとするのでござるな。えい、見えぬではないか。手拭いを 退けて下され」


 餅之助は手拭いを強引にむしり取ると、地べたに叩きつけました。

 そして真剣な横目で竹蔵さんの仕草を睨みながら、鼻の穴をピクピクさせました。


 クシャミが出かかっている最中の竹蔵さんは、それどころではありません。


「へえ、へえ……」


「うむ。胸をうんと反らし、大きく口を開けて息を吸うのですな。ホオ、ホオ……」


 餅之助は、小さな体をまん丸く膨らませました。


 そしてついに竹蔵さんは、豪快なクシャミを大爆発させました。


「えええエエエエ……くっしょう!!!」


「ホオオオオオオ……ケキョオウ!!!!!」




「うわああああ!」


 あまりの衝撃に、竹蔵さんは仰向けにひっくり返って尻餅をつきました。


 餅之助の放った声は、この世で一番大きな鐘の音のように大地に轟きわたり、辺り近在に残った冬の気配を消し飛ばしました。


 初鳴きの余韻に散った花びらが、道端に坐り込んだ竹蔵さんにはらはらと降りかかります。


「いよう! おそれいったぜ、春告げ鳥!」


 竹蔵さんが声高らかに叫びました。


「思い出してござる!」


 餅之助は深々とお辞儀をすると、翼を広げて飛び立ちました。

 小さくなる鳥影を見送って、竹蔵さんはにっこり笑いました。


 霞の空にまたひとつ、見事なホウホケキョウが響き渡りました。


                     <了>

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