第7話 森の中

 森の奥へと足を踏み入れておそらく1時間はたったと思われる頃、俺は今異世界に転生してから二度目の戦闘を経験していた。


「くっそ!よりによってトレントに遭遇するなんて!」


 トレントが橫薙ぎに放った大きな枝を転がって避けながら俺は何度目かになる悪態を吐いた。

 事の起こりは30分くらい前に遡るが、ようやく目当ての薬草を見つけ採取していたところにこのトレントが姿を現し不意遭遇戦に発展、そして今に至るという訳である。

 一応冒険者になった手前、武器は必要だろうと学校の卒業製作で造ったメイス(青銅製)を荷物から引っ張り出して所持してはいたがまさか実際に戦闘で用いることになろうとは思っていなかった。

 備えあれば憂いなしとはよく言ったものである。


「とはいえ、トレントにはあまり有効な得物だとは言えないな。」


 トレントはファンタジーもののゲームなんかに出てくる通り木の魔物であり、つまりは植物である。

 なので、斧などの刃を持つ武器ならともかくメイスのように打撃武器だと相性は最悪で斧なんかに比べるとあまりダメージを与えることが出来ないのである。

 しかもこのトレントは俺の攻撃を何らかの方法で受け流しているようで攻撃を当ててもあんまり手応えが感じられない。

 なので目の前にいるトレントに俺はかれこれ20回くらいはメイスで攻撃を与えてはいるものの倒れる兆しがなくて困っていた。

 というわけで、俺はこの状況を打開するために奥の手を使うことにした。


「これはあまり使いたくはないんだけど仕方ない。欠乏のルーンたるN《ニード》よ!俺に困難を打破する力を与えたまえ!」


 ルーン文字力ある言葉を声高に叫ぶと俺の体中の筋肉が軋みをあげながら膨張し、二倍ほどに膨れ上がった。

 俺は膨れ上がったせいで感じる全身の痛みを我慢しながら目の前のトレントに近づいてトレントの幹にメイスを思いっきり叩き付けた。

 叩き付けられたメイスはそれまで俺がトレントに振るってきたものとは異なり桁違いの威力をトレント本体に与え、メイスが当たった場所はすぐさま砕け散り、威力に耐えられなかったトレントはそのまま砕けた場所を起点として真っ二つに折れてしまった。

 俺はトレントが確実に死んでしまったことが分かるとルーン文字を発動させたままトレントを持ち上げて街へと運んで行った。


◇◇◇


 帰ると街の門前で衛士が数人こちらに槍を向けながら取り囲むような形で近づいてきた。

 なぜか物々しいというか殺気立っているというか、緊張しているというかそんな雰囲気を滲ませながら衛士達はこちらに槍を向けて取り囲みつつ一定の距離を保っていた。


「あのー。」


「トレントがしゃべたあああぁぁぁぁあああ!?」


 おそらく一番若手だと思われる一人の衞士が尻もちをつきながら驚いたようにそんな声をあげた。

 いくらルーンの効果で筋肉達磨のような見た目になっているからといってさすがにトレントには見えないと思うが............トレント?

 もしかして俺のことが見えていない?

 俺はその可能性に行きつくと担いでいるトレントを脇に退けて両手を挙げながら取り囲んでいる衛士達に向けて言った。


「話をさせてください。」

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