さあ、モンスター狩りだ!


 ドラゴンを倒す。

 それを成功させるために、俺達は洞窟の中を進んでいた。

 中はとても広くて、エレナが言うには一番奥にドラゴンはいるらしい。

 魔法を使うと勘のいいドラゴンにバレるので、エレナ支給のランタンの灯りの元、慎重に歩く。


「作戦の内容は、完璧に頭に入れて実行すること。少しでも間違ったら、俺は死ぬ」


「はい。気をつけます」


「大丈夫よお。ちゃんとやるわ」


 不安がないと言ったら嘘だけど、仲間がいるのは心強かった。

 俺は自然と口角を上げながら、意気揚々と進む。

 そうこうしているうちに、ドラゴンの大きなイビキが聞こえる穴の前についた。

 その前に立ち止まると、お互いに顔を合わせる。

 そして、力強く頷く。


「行ってくる」声には出さずに、ジェスチャーだけで伝えると、一度深呼吸をして中へと入った。

 入った先は、元からなのかドラゴンがそうしたのか、とてつもなく広い。

 これは東京ドーム何個分だろうか、とそんなくだらないことを考えてしまう。

 それにしても、いびきがうるさい。寝ているのは、こちらとしてはものすごく都合がいいけど、ずっと聞いていたら頭が痛くなってしまいそうだ。

 これは、短期戦で挑むしかないな。

 耳を塞ぎながら、俺は遂にドラゴンのすぐ目の前に来た。


 おお、すごい。

 アニメや漫画で見るような、ドラゴンがそこにはいた。

 顔だけでもトラックぐらいの大きさがあって、鼻の穴から出される風で吹き飛ばされそうだ。

 寝ているからマジマジと観察できるけど、普通だったら近づきたくすらないな。

 それじゃあ、起きる前にさっさと倒すか。

 俺は頭の中で、作戦を一度シミュレーションすると、早速決行した。


 ポケットの中に手を入れて、素早く目的のものを取り出す。

 そしてそれを、そっと床に置いた。

「よろしく頼むね」口パクで言うと、小さな妖精のぬいぐるみは、元気よく敬礼をして答える。

 これはサーシャがつくったもので、あらかじめ彼女のスキルで動くようにしてもらっていた。

 どう動いてもらうかと言うと、とても簡単だ。


「ゴオオオオオオゴオオオオオオゴオオオオオ……グガッ!?」


 ドラゴンの後ろに行ってもらい、渡しておいた針で体を突き刺してもらう。それだけ。

 そうすれば、痛みに驚いて目を覚ましたドラゴンが、大きく口を開けた。

 それを確認すると、俺はその口に向かってあらかじめ持っていた野球ボールぐらいの石を投げた。

 真っ直ぐに口の中へと飛んでいく石。


「エレナ! 頼んだ!」


「はーい」


 あとはそれを、エレナのスキルで大きくしてもらうだけ。


「ンガッ!?」


 そうすれば野球ボールぐらいの石は、一瞬でドラゴンの顔以上の大きさへと変わる。

 そんなものが喉のところに詰まれば、自然の摂理でドラゴンは白目を向いて倒れた。


『自分の作ったものを自在に動かすスキル』

『投げたものを狙った場所に入れられるスキル』

『物を大きくするスキル』

 それぞれのスキルを駆使して、俺達はドラゴンに勝ったのだ。


 ゆっくりとドラゴンが倒れれば、地響きと共に砂埃が舞う。

 俺は巻き込まれないように、石を投げたあとは逃げていたので無事だった。


 それにしても、こんなにも上手くいくなんて。

 倒れて動かなくなったドラゴンを前にして、少し信じられない気持ちだった。

 まあ、でも倒せてよかった。

 俺は自分の寿命が伸びたことへの感謝を感じながら、サーシャに教えてもらった方法で、ドラゴンの体から力を抜きとる。


「おお。なんだか体が軽いぞ」


 ドラゴンの力ってすごい。

 急に軽くなった体に、俺は感心する。


「お疲れ様ですー! 倒せましたね!」


 そんな事をしていれば、サーシャとエレナがこっちへと近づいてきた。


「ありがとう。二人のおかげだよ」


「んふふ。良かったわね、あなたが死ななくて」


 サーシャはもちろんのこと、エレナもとても嬉しそうだ。

 それも無理もない。

 ドラゴンを倒せる人なんて、この世界では少ないらしい。

 それを分かっていて、俺に協力してくれたのだから、性格に難はあるけどエレナは優しいのだろう。


「んふふ」


 どうやら、また俺の考えていることを読み取っていたみたいで、意味ありげに笑われた。

 やっぱり苦手だ。

 そう思いながらも、俺はもう一回お礼を言う。


「本当にありがとう」


「いえいえ! これからも、どんどん頑張りましょうね」


「そうね。次は何を倒そうかしら」


 そうだった。

 ドラゴンを倒したけど、これで終わりじゃない。

 俺は腕のスライムを見る。

 ドラゴンの力を取り込んでいるのか、少し機嫌が良さそうだ。

 こいつがくっついている限り、俺はこれからもモンスターを倒し続けるしかない。

 今回は上手くいったけど、次はこんなに簡単にいくのか。


 今後の未来を思うと憂鬱になるけど、今はドラゴンを倒した喜びを噛み締めておこう。

 俺は、あからさまな現実逃避をした。






 これが、これから異世界をチートに生きていく俺の、記念すべきモンスター狩り一体目の話だ。

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くだらないスキル持ちの俺が、結局チートになる 瀬川 @segawa08

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