やった! 仲間が増えたよ!


 絶望の底に沈んだ俺の周りを、サーシャが心配そうにクルクルと歩き出して、どのぐらいの時間が経ったんだろう。

 最初は落ち込んでいたけど、今はもう吹っ切れている。

 チートは無理だとしても、異世界転移を楽しめないわけじゃない。

 それに早くモンスターを退治する計画を立てなければ、生きていくことさえもままならないんだ。落ち込んでいる場合じゃない、というのが本音だ。

 それなのに、何故未だに落ち込んだふりをしているのか。

 それはサーシャの困った顔が面白いのと、これからやろうとしている計画の内だ。


 俺はまた深くため息をつくと、サーシャに聞こえるギリギリの音量で呟いた。


「ああ、終わりだ。こんなスキルだけで、ドラゴンを倒すなんて無理に決まってる。死ぬしかない」


「そ、そんなこと言わないでください!」


 そうすれば、獲物サーシャはいとも簡単に引っかかった。

 下を向いていた俺の頬を両手で挟んで、彼女は真っ直ぐに目を見つめてきた。


「死ぬなんて駄目です!私も協力しますから、きっと大丈夫ですよ!」


「本当に?」


「はい!」


「後でやっぱり無理、とか言わない?」


「言わないです! それに私の友達にも、協力を頼みます!」


「ありがとう、助かるよ」


 俺は弱々しい態度でお礼を言ったけど、内心ではとてつもなく悪い顔をしていた。

 計画通り。

 そんな言葉が、頭に浮かぶ。

 そういう風に思っているとは全く気づかずに、サーシャは俺が顔を上げたことにほっとしている。

 良心が痛まないわけではないけど、こっちも死活問題なのだ。なりふり構っていられない。

 そのおかげで、こうして仲間が出来たのだから結果オーライだ。

 俺は頬を挟んでいる手を、スライムがくっついていない方の手ではがす。

 そして重要なことを聞いた。


「サーシャは、どんなスキルを持っているの?」


「えーっと、そんなに大したものじゃないです。『自分の作ったものを自在に動かすスキル』」


「ふむふむ」


「それと、『料理をなんでも美味しくするスキル』です」


「めちゃくちゃ最高じゃないか」


 どの世界に行っても、食事は大事。

 それは俺の、モットーだった。

 異世界に来てから初めて運が良いと喜んで、サーシャを選んだのはよかったと自分を褒めた。

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