現実を教えられる
彼女の名前は、サーシャ。
ここの街で、趣味の手芸で作ったものを売って生活しているという。
両親は既に他界していて、親戚もいなく天涯孤独の身だと、無理に明るく笑った。
そんな彼女は、スライムの衝撃から覚めれば、とても丁寧にこの世界のことを教えてくれた。
「この世界に転移や転生をする人は、多くはないですが一定数います。だからあなたも申請をすれば、保護を受けられるはずです」
この時点で、俺が異世界から来た特別な存在という可能性は消えた。
まあそれは仕方の無いことだし、その方が住みやすいのかもしれない。
前の世界の知識を使って、この世界を便利にするという機会も失われたが、まだチャンスはある。
「そういった異世界から来た人は、私たちよりも素晴らしい力を持っているのですが……」
そうそう、そういうの。
俺は待ち望んでいた展開に、顔がにやける。
しかしサーシャの次の言葉に、それは驚きの表情になった。
「あなたに関しては、それは例外になるかもです」
「えっ!? 何で!?」
「だって、腕にスライムをくっつけていますし」
スライム?
スライムが俺と、何の関係があるんだ?
腕に巻きついたり離れたりと、遊んでいる様子が可愛らしいのに。
「スライムは、ドラゴンと同じぐらい恐れられています。それは体に巻き付かれると、ジワジワと力を奪われるからです。だから、あなたの力は多分私たちより少し上ぐらいしかないと思います」
「はああ!?」
「しかもスライムは、一旦くっついたら死ぬまで離れません。くっつかれる前なら、火を使えば何とかなりますが。その状態になったら、腕を一本犠牲にしてもいいんだったらはがせます」
そ、そんなに大変な状況なのか。
俺は途端に、腕にいる存在が恐ろしくなったけど、包まれている腕の感覚は変わらないから和んでもしまう。
なんだかシリアスな雰囲気を作れなくて、サーシャにへらりと笑った。
「それで、スライムがずっとついたままだと、他に不都合はあるのかな?」
「あ。えーっと、そのー。」
彼女はとても言いづらそうに、目を逸らした。
これは他にも、大変な事実があるようだ。
俺はじっと彼女を見つめて、話を促す。
少し時間が経つと、観念して話を始めた。
「スライムは定期的に、力を奪い取ります。だから補給をしないと、いつかは死んでしまいます」
「まさか、生死を左右される話か。それで、補給する方法は?」
「そうですね。力を石に込めている補給石はありますけど、一個の値段が高すぎるので現実的ではないです。だから残された手段としては……モンスターを倒して、力を奪い取るしかないですかね。それも弱いのじゃなくて、ドラゴンぐらいのレベルのを」
「それは、それは」
力があったら簡単かもしれないけど、今の俺じゃ難しそうだ。
それでも、やらなきゃ死んでしまうのか。
選択肢なんて、初めから用意されていない。
「あ! でも、まだ可能性はあります!」
落ち込んだ俺を可哀想だと思ったようで、サーシャは立ち上がり、戸棚を荒らしに行くと一枚の紙を持ってきた。
「あなたのスキルを、調べてみましょう!」
そして、意気揚々と俺の前に紙を置いた。
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