第7話 黒剣の思惑
「何ノ用ダ」
「ララちゃん、上官に向かってその口の利き方はないだろう」
「貴様ハ私ノ上官ナノカ」
「やっぱり忘れているね。僕は君の上官バリスタ・クラッシス。諜報部の大佐だよ」
「申シ訳アリマセン。大佐殿」
「いいよ。ララちゃんの記憶データが壊れたのは僕の責任だから」
「……何故ソノヨウナ事ヲ」
「説明すると長くなるんだけどね」
「私の事も知っているのですか?」
私は唐突に質問した。
大佐は笑顔で頷いてくれた。
そこから大佐の話が始まった。
「ここは元来パルティア族という少数民族が支配する地域だった。およそ500年前の戦乱時に帝国軍はパルティアを支援した。その時に遺失した鋼鉄人形があったのだが、それが今問題になっているんだよ」
「どうして残されたのでしょうか?」
「それはね。この地を救った鋼鉄人形をパルティアの人が救世主として崇めたのさ。その鋼鉄人形をご神体とし、周囲を木々で囲み天然の神殿とした。当時、帝国もそれを認めたのさ」
「その神殿がこの森の中にあるのですね」
「ああそうだ」
「パルティアの人は今どうしているのでしょうか?」
「残念なことに、パルティア族はここから追い出されてしまった。自然の中で歌い祈りをささげて生活する人たちを野蛮人だと決めつけてね。無理やり都市に住まわせ労働者として働かせたのさ。すべて共和国の政策だよ」
「もしかして私は……」
「察しがいいね。メル・アイヴィー。君はパルティア族の末裔。歌と祈りに生き、精霊の力を宿すものだよ」
「そんな。私は不思議な力なんて持ってない……と思います。多分……」
「記憶を改ざんされているんだよ。共和国軍の首脳部はパルティア族の精霊術が鋼鉄人形を動かせることを掴んだ。それで精霊の歌姫を軍事利用しようと考えた。もちろん精霊の歌姫がそんなことに加担するわけがないから、精霊の歌姫の意識を悪魔の歌姫に書き換えた。それが君だ、メル・アイヴィー」
「私が悪魔の歌姫と呼ばれているのは共和国軍の仕業だったのですね」
「そう。それとは別に一つミスがあってね。ララへの指令は悪魔の歌姫の抹消。つまり、君の意識を元に戻すことだったんだけどオペレーターがタイプミスしちゃってね。抹消を抹殺にしてララへ打ち込んでしまったんだよ。ララは君を救うはずの任務で君を抹殺する指令を受けた。君の前でその矛盾に気づき自己破壊してしまったんだ」
「どうして私の記憶がないのでしょうか」
「申し訳ない。ララの仕事が半分だけ成功したって事。後ほど僕が責任をもって君を元に戻すよ」
大佐はドカッと腰を下ろし、パンを掴んでむしゃむしゃと食べ始めた。
「コーヒーがあると最高だけどな。ははは」
「暢気ナモノダナ」
「硬いことを言うな。メルちゃんいいだろ」
「ええどうぞ」
浅黒い肌をしたこの鷹揚な男はなぜか周囲を明るくさせる。
私の記憶は戻らない。
でも、私は悪魔ではなかった。
ララちゃんは私を助けに来てくれた。
その事実を聞いて胸が熱くなる。
ララちゃんと出会えてよかった。
そしてこのバリスタ・クラッシス大佐と出会えてよかった。
その時の私は心の底から安堵していたと思う。
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