第5話 悪魔の歌姫と鋼鉄人形

 戦車に囲まれて銃を向けられている。

 私はここで死ぬのか。


 私の名はメル・アイヴィーだと教えられた。でも、思い出したわけじゃない。

 

 死にたくない。

 思い出したい。

 自分を取り戻したい。


 神様お願い。私を助けて。

 私は必死になって願った。神様なんているのかどうかさえ分からない。

 でも、祈った。助けてと。


 その時、向こうにいたゾウのお化けが爆発した。


「敵機直上。急降下してきます」

「対空誘導弾発射。てー!」


 サワ中尉の命令で戦車4両が一斉にミサイルを発射した。

 それは白い煙を吹きながら急上昇し爆発した。


 弾幕を潜り抜けた戦闘機は機銃掃射してきた。戦車が一両穴だらけになり爆発した。戦闘機は旋回し上昇していく。


「クナールは空中戦闘へ移行する。各車ハッチを閉じろ」


 サワ中尉は拳銃をホルスターに納め放り投げた。ララちゃんはそれを受け取り首を傾げた。


「30分は俺たちが上空を制圧する。その隙に森へ入れ」

「ドウイウ意味ダ」

「あの森の中に鋼鉄人形がいる。お前はそれを確保して来い。そうすればそこにいる悪魔の歌姫も無罪放免だ」

「ソウイウ事カ」


 サワ中尉はニヤリと笑って車内へ潜り込みハッチを閉めた。平べったい形の戦車はスーッと浮上して、そして一気に加速して大空に舞い上がった。上昇していく戦闘機を追いかけていく。


「戦車が空を飛んだ?」

「短時間ダガアノ戦車ハアアイッタ運用ガデキル。走ルゾ」


 私は一生懸命走った。

 でも転んでしまった。

 私は運動が苦手だったらしい。


 ララちゃんは私を肩に抱えて走り出した。


「シバラク我慢シロ」

「きゃあああ!!」


 私は悲鳴を上げていた。

 だって、ララちゃんは物凄いスピードで走っていたから。

 程なく森についた。ララちゃんは私をそっと降ろしてくれた。


「着イタゾ。大丈夫カ」

「うん。でも帽子が飛ばされちゃった」

「スマナイ」

「うん」

「貴様ノ事ヲ“メル”ト呼デモイイカ」

「いいよ。今から私はメル。実感ないけど名無しよりはずっといい」


 私たちは森の中の細い道を歩いていく。


「ここ、あの戦車は通れないね」

「ソウダナ。歩兵部隊ガ展開シテイルハズダガ……」

「帝国軍の?」

「モチロンソウダ。共和国軍モイルダロウ」

「出会ったらどうするの?」

「闘ウシカナイ」

「出会いたくないね」

「ソウダナ」

「ところでララちゃん。その鋼鉄人形ってララちゃんは動かせるの?」

「ワタシニハ無理ダ」

「じゃあ、どうするの?」

「見ツケテカラ考エル」


 ララちゃんはああ言っているけど、きっと気づいているんだ。

 私が鋼鉄人形を動かすための何かだって。

 

 何かはわからないけど。


 私は私が何なのか、その答えに一歩近づいた気がした。

 でも、その答えを知るのが怖くなった。


 だって、私自身が戦争の道具かもしれないから。

 帝国軍から悪魔の歌姫と呼ばれているのだから。

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