第4話「神殺しの妙技、鮮烈!」
周囲の悲鳴を聴きながら、
普段は
闘技場の中へ着地する【ガラハード】へと、ケイは乗り移る。
「どうしよう、こんなのってマナー違反じゃ……
やはり、歴然とした体格差がある。
だが、既に少女は三機の神を殺しているのだ。
そう、
チャンプの
『ハッハー! ついに尻尾を出したな、神殺し! 待ってたぜぇ!』
少女は知っていた。
この闘技場の中でなら、他のプレイヤーを巻き込まないと。
だが、それはチャンプの庭へと自ら飛び込む、完全アウェイの戦いに挑むということだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だがこの虎の穴には無数の牙と爪とが待っていた。
驚くケイは、機体のレーダーがアラートを響かせる中で知った。
【オーディガン】の周囲に、あっという間に見知らぬ
『お前が俺達、七機神を狙っていることは知っていた! なら、俺の前にも必ず現れる……お前は
『……それで?』
『闘技場なら
少女の気配が
だが、どこかユーモラスな【ギルガメイズ】は、そのずんぐりとした身を小さく沈ませるだけだった。
ケイにはでも、それで十分伝わった。
神殺しと恐れられた女の子の、心の底からの怒りを察したのである。
「すみません、チャンプ! あのっ、それは闘技場のルール違反ではっ! リアルで仕事や学校があるプレイヤーだって!」
思わずケイは、【ガラハード】を前に出す。
結果、【ギルガメイズ】と共に銃口を向けられることになった。
だが、ぶるって縮こまる気持ちを
「七機神が連続して襲われるのには、七機神側にも問題があるのでは……ここは話し合いを、とりあえず冷静に――」
『黙って。邪魔よ』
回線を通して【ギルガメイズ】から、氷の刃が突き刺さる。
その頃にはもう、少女とケイは
それでも、静かに怒りの声が響く。
『どこの誰だか知らないけど、邪魔したらぶつわよ? 下がってて。……誰も、巻き込みたくない』
嘘だとは思えない声音だ。
そして、もう手遅れ……ケイは敵として無数のロックオン表示に囲まれている。
普段のケイなら、こんなことにはならないだろう。現実では、決して自ら厄介事に関わろうとは思わない。自分はあくまで、あらゆる人間にとっての
だが、ここでは違う。
ゲームだからかと言えば、その通りだ。
自分で選んで自分で遊ぶ、自分自身を表現できるのがゲームだ。そして、例え現実ではないにしろ、ここには無数の人が行き交う世界が広がっているのだ。
「とにかく、話し合いが無理なら離脱を」
『無理ね。……アンリ、よ。そっちは?』
「へ?」
『私の名前。君は?』
「えっと、ケイです」
アンリ、それが少女の名。
胸の奥へと染み渡る。
自分を助けてくれた、神殺しのプレイヤー。そのアンリが、ズシャリと【ギルガメイズ】を構えさせた。
同時に、周囲から無数の火線が集中する。
あっという間に、周囲は
無意識にケイは、【ガラハード】の持つシールドで【ギルガメイズ】を
どうやら修理中の状態でも、ある程度の防御力は期待できるようだ。だが、すぐにダメージを告げる警告表示が止まらなくなった。
『ヘイ! ヘイヘイ、ストーップ! 馬鹿野郎、なにも見えねえ! 蜂の巣にしすぎだ!』
チャンプの声が響いて、徐々に射撃が収まってゆく。
その時、眼光鋭く【ギルガメイズ】が飛び出した。
真っ直ぐ、チャンプの【オーディガン】へと吸い込まれてゆく。
「あのっ、アンリさん!」
『どんな状況であれ、私がやるべきことは一つっ!
あっという間に【ギルガメイズ】は、【オーディガン】に肉薄した。
同時に、周囲の仲間達は口々に叫ぶ。
『あのアマァ! これじゃチャンプにも当たる!』
『くっそー、この24時間シフトが始まって半月……絶対許さねえ!』
『でもよ、ここで倒せば……俺達のギルドの名声、うなぎのぼりだぜぇ』
『だけど、あの
二機のエクスケイルが向き合う戦場に、誰も割って入れない。
チャンプは愛機【オーディガン】の火器を、全て捨てた。背のミサイルランチャーと迫撃砲も、手にしたライフルもだ。そして、左手を握って大きく振りかぶる。その腕には、巨大な鋼鉄の
アンリはただ黙って、半身に構えて動かない。
あくまで【ギルガメイズ】は、素手で戦うつもりらしい。
『野郎共っ、見ておけ! この俺が、神殺しを殺すとこをなあ!
【オーディガン】が地を蹴った。
鋭い
あまりにも素早いその動きに、【ギルガメイズ】は避けきれずに被弾した。
文字通り身を削るような攻防が始まった瞬間だった。
『オラオラァ! どうした、神殺しァ!』
『……やはり、そのパイルバンカーは間違いないわね。普通のアイテムじゃない』
『当然よぉ! へへ、声がかわいいじゃねえか。今すぐこいつをブチ込んで、昇天させてやっからよ!』
ケイには、アンリが押されているように見えた。
それも、ジリジリと削られ追い詰められている。
だが、割って入る勇気がない。それが物理的に不可能だとも知っている。あまりにレベルが違い過ぎて、二機の動きを目で追いかけるのがやっとだった。
そしてとうとう、【ギルガメイズ】の脇腹にパイルバンカーが突き刺さる。その瞬間、勝負は決した……トリガーと同時に、
だが、チャンプは
『よぉ……ちょっと降りて、
『断るわ。密閉されたコクピットからでも感じる。腐った酷い臭い……あんた、臭いわ』
『へへ、言うじゃねえか……ん? この感触、中になにかあるなあ?』
頭部ばかり大きくて、逆に手足は不格好な短さ。
そんな【ギルガメイズ】の中を、刺したパイルでコンコンと【オーディガン】が叩く。
『もしかして、中の人がいるってか! おいおい、なかなかのロマンだなあオィ!』
中の人……つまり、あの奇妙な姿は外装で、その中に本来の姿、真の姿が格納されているというのだろうか? だが、その言葉がアンリの
『……ロマン? ロマンっていうのは、あんたの腐れた
『なっ……このアマァ! ……あ? あ、あれ? おい、どうした!』
パイルバンカーが、作動しなかった。
そして、ケイは目撃する。
ギギギと
異物が引っかかって、炸薬が装填されないのだ。
これを狙ってやったとしたら、とんでもない荒業である。
『手前ぇ、まさか最初からこれを!』
『その武器は熟知してるわ……何故かは知ってるわね?』
『――ッ! ま、まさか、あの時の……
『思い出したのなら、そのまま
ケイは見た。
バイザーで覆われた【ギルガメイズ】の顔に、妖しく光る
次の瞬間には、バク転と同時に蹴り上げた
一拍の間をおいて、闘技場の奥に音を立ててその頭部は落下した。
『ケイ! 離脱するわよ、ついてきて!』
あまりのことに、周囲は
アンリは叫ぶと同時に、崩れ落ちる【オーディガン】の左腕をもぎ取った。そういえば、先日の【ゼグゼウス】の時もそうだった。七機神を神たらしめる、究極のレアアイテム……ロマンをそのまま形にしたかのような、本来ありえない武器。
それをアンリは、どうやら回収しているようだ。
気付けばケイは、ジャンプする【ギルガメイズ】の背を追って、スラスターを吹かせていた。
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