盗まれた偽物の宝石/夕凪 春

 ここで突然だが、宝石とはいったいなんだろう。

 もちろん一般的には、アクセサリーなどに使用される天然の鉱物のことなどをいう。希少性などで価値も変わるが、同じ色でも種類が違ったり、まったく違う色合いなのに同属や同系統という宝石もみられる。これだけでもなかなか面白い。

 そんな宝石の美しさに、人は夢を見るわけだが……。

 当然、その中には誤認されやすい宝石もある。



《盗まれた偽物の宝石/夕凪 春》

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887740344



 この物語の主人公は偽物の宝石だ。

 いや、宝石そのもののことを言っているわけではない。どうやら何らかの要因によって替え玉にさせられている姫君だ。そのため人前では姫としての扱いをされているが、裏では虐げられている。それが当然だと思っていたのだが、あるとき自分が替え玉だと知ってしまう。いったい自分が誰なのか自分でもわからない。そこに現れるのが……というのがおおまかなストーリーだ。

 見ればわかるが、ストーリーとしてはいい意味でオーソドックス。

 個人的には怪盗の過去は描かれず、もっとシンプルなミステリアスさやスマートさがあっても格好良い気がしたが完全にそのへんは私の好みの問題だ。

 こちらは絶妙な人間くささがあるので、これはこれで良い仕上がりになっている。

 ただこの作品はストーリーがオーソドックスとはいったが、その中で宝石の名前や意味を上手く組み込んで使っている。ここが好印象。

 宝石の名前などに隠された意味を語らず、読者に気付かせる方式をとっているのもいい。知らなければ調べてみたあとにニヤリとさせてくれるだろう。

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