過去の夢幻2

「さぁ航君、入って」

「……お邪魔します」

 玄関を開けて微笑む物腰柔らかな女性、神崎の面影があり姉妹ではないかと思わせるこの女性は彼女の母親だ。正直今でも信じられないが……おばさんと呼ぼうとすると無言の圧力を与えてくるのでお年を気にする年齢ではあるらしい。

 念のためということで二日の入院後に連れてこられたのは神崎家、利き腕骨折で一人暮らしは何かと不都合が多いだろうと神崎母の提案で居候をすることになってしまった。


 母さんの病気に悪い影響が出てはいけないからと頼み込み親への連絡は回避して叔父さん兄ちゃんへの連絡となり、そこで正式によろしくお願いしますという事になってしまった。

 多少不便でも他人の家に厄介になる気苦労を考えれば一人の方が楽だったんだが……珍しく叔父さんが怒っていてこれ以上何かあれば流石に話さざるを得ないと言われてしまったので従うしかなかった。

 心配性の母さんに骨折するような事件に巻き込まれたなんて言ったら絶対に悪化するからな。


「何をしている、入りなさい。今日からここが君の家だ……だが! くれぐれも理央の部屋には近付かないように――ああ、あと風呂を覗くようなことは絶対にしないように」

 そんなに疑うなら部屋に帰らせてくれ。居候の件についてはおじさんも納得済み――というより勧めていたはずなのに……よっぽど娘に男を近付けたくないんだな。

 弁護士だと言うから示談の交渉を任せたけど、大丈夫なんだろうか?


 犯人はすぐに捕まり、その時点で犯人の親から示談の申し入れが来ていた。

 おじさんは当然怒りを露にしていたが俺にはチャンスに思えた。

 あいつらがやったことは許せないし裁かれるべきだろう、だがしかし金が欲しい。うちは片親だし学費は奨学金の借金、生活費は叔父さんに借りている。馬鹿親父が慰謝料や養育費を支払っていれば違っただろうがあのクズはそんなもの払わない。

 この上母さんの治療費のこともある、母子家庭で医療費の免除があるがそれ以外の治療に効果のあるものを試そうと思えば色々入り用だ。保険が下りてはいるがそんなもの簡単に底をつく。

 ばあちゃん達や叔父さんの援助だって限界はある。こっちの生活に慣れればバイトをするつもりでいるがそんなものでは足りない。足りない尽くしだ。

 だからこの話は渡りに船だと思えた。事情を話すとおじさんは渋々了承してくれて可能な限り示談金を引き上げると言ってくれた。


 相手は町の名士の息子であり親は市長選出馬前でなんとしても揉み消したいようで多少の引き上げでは簡単に払うだろうから際どいところまで攻めると言っていた。

 まぁあくまでも示談にするのは俺の殺人未遂だけで強姦未遂は徹底的に追い込むようにすると鬼の形相で言っていたが――。


「はい、ここの客間を使ってね」

 部屋の落ち着いた雰囲気に合わせたシンプルな家具と家電、中古で揃えたうちの物より当然いい……が、他人の物だと思うと扱いに気を遣って寛ぐどころじゃない。やっぱりどうにかして帰りたい。

「おばさん、申し訳ないんですけどやっぱり俺――」

「航君、私の名前は日和よ? …………ねっ?」

 無言の圧力が怖いっす! でもクラスメイトのお母さんを名前呼びって絶対に変ですよねぇ!?

「観念した方がいいわよ。日和さんあたしがちっちゃい頃からこうだし……にしてもあんた! またやってくれたわね! ホント最高、あたしの大切なものを二回も守ってくれるなんて」

 背後から現れた上機嫌な奏に肩を何度も叩かれる。余程嬉しいのかその手には力がこもっている。


「奏ちゃん、一応怪我人だからね」

「あぁそうだった。じゃあはいこれ、あんたが休んだ日の全教科のノート」

「え?」

 休んだのは木金の二日だけだが学業に遅れのある俺には大問題だ。どうしたものかと悩んでいたがぼっちな俺には誰かに借りるという発想がなかったので差し出されたノートを見て固まってしまう。

「あれ? 必要なかった?」

「いや要る。いいのか?」

「いいから渡してるんでしょ、返すのは月曜でいいから」

「……ありがとう」

 避けまくっていたのに親切にしてくれる……謝らないといけない衝動に駆られるが上手く言葉が出ずに口ごもってしまう。こういう時口下手なのが嫌になる。


「ねっ? どう日和さん、良いやつだったでしょ」

 今の流れでどうして良いやつって話になるんだ?

「そうね、奏ちゃんが話してた通り。これで理央も男の子に慣れてくれるかしら」

 あぁ、そういう感じで奏は俺を引き込みたかったのか。男嫌いも過度であれば不都合も出るだろう、それを治す為に…………。


「今日は如月君の退院祝いだ。嫌なことは忘れて寿司にしよう、日和さん久遠亭に注文お願いね」

「はい光治さん。航君お肉とかも好き?」

「はい、まぁ」

 おじさんの一声で日和さんが電話の脇にあるメニュー表を開いている。美味そうな料理が並んでいるがお値段がかなり強気な設定だ。

「そうよね、男の子だものね。奏ちゃんも食べてく?」

「いいの? やたっ! じゃああたし海鮮丼で、あんたもそうしたら? 久遠亭の海鮮丼は最高よ」

 まだ会って間もない他人のお宅で店屋物を食べるという事に遠慮しないなんて事が出来ようか――否、出来ない。しかもなんかお高そうな店出てきたし……居候の間の生活費は気にしなくていいなんて言われていても気になる。

「じゃあ海鮮丼二つと松を四つ位とお肉ね。奏ちゃん、響ちゃんも呼んでらっしゃいな」

 反応に困っていると日和さんは手早く電話を済ませてしまった。


 家族ぐるみの付き合いをしているという鷹宮姉妹と神崎家の住人に囲まれて居場所の無さを感じながら夕食を終えた。

 料理はやはりお高いお店なのだろう、海鮮丼はカニやらウニやら具が多くとても美味しかった。ローストビーフもソースが癖になる味であれを知ってしまうと他のものでは満足出来ないかもしれないくらいに素晴らしかった。

 用意された客間に戻って唸る。他人の金で高い飯を食べてしまった……礼の気持ちもあると言われても怪我をしたのは自分の油断だし助けたのも気まぐれだから恐縮してしまう。

「やめよう、いちいち悩んでたら一か月も身が持たん」

 気分を変えて机に向かい奏に借りたノートを写す事にした。が――。

「右手ぇ…………」

 利き手が死んでいるのだ。まともに書けるはずもなく心は折れた。

「それにしてもこのノート凄く分かりやすいな」

 遅れている俺には授業はちんぷんかんぷんでとりあえず黒板を写している状態だがこのノートは授業と違ってある程度理解できる。わざわざ馬鹿の為に解説が書いてあるんじゃないかと思えるほどだ。

「そんなわけないか」

 引きこもりで学校をサボっていた事は教師しか知らない。教師がわざわざ生徒の経歴を吹聴して回るはずもないのだから奏が知り得る事はない。


 写すのは諦めてコピーを取る事にしてノートを読んでいると部屋の戸がノックされた。返事をすると扉が開き佇んでいるのは神崎だ。

 だが部屋に入るでもなく入り口に立ち尽くしている。あれ以来話してないんだよな…………。

「……お風呂、沸きましたから入ってください」

 瞳は不安で揺れて何かを必死に耐えるように立っている。

「……俺は最後でいいよ。時間掛かると思うし」

 そう言って右手を上げて見せると神崎は俯いてしまった。まずったか……そりゃ一応俺が助けた事になってるんだから気に病むか。

「ああこれは責めてるんじゃなく――」

「いいから入ってくださいっ!」

「は、はい!」

 なんか怒ってたな、顔も赤かったしやっぱりよほど男が嫌いなんだろう。男嫌いなら男の後になんて入りたくないと思うんだけど……自分の入った後の湯に浸かられる方が気持ち悪いってことなのかね。


 脱衣場で多少苦戦しながら衣服を脱いでいく、そしてトランクスを下ろしたタイミングでそれは現れた。

「か、かかか神崎!? ――むぐ!?」

「さ、騒がないでください! 父さんにこんなところ見られたら殺されますよ」

 ならなんで入ってきた!? 俺を殺したいのか!? 不自然に顔を反らした神崎が背伸びをして俺の口を塞いでいる。

「なら早く出ていって――いや、出ていくから服着るのを待ってくれ」

 やっぱり先に入る方がマシだと考え直したんだろう。恥はかいたが住人優先、所詮俺は居候、従うしかない。そう思ったのだが――。

「いいから黙って入ってください」

 風呂場に押し込まれてしまった。入っていいならなんで来たんだ……?

 大きな風呂場に立ち尽くし首を捻っていると背後の引き戸が開いた。


「なんなん――っ!? なんなんなんなんなん!?」

 いったいどうしたいんだと文句を言おうと振り返ると居るバスタオル一枚の少女に壊れたように同じ音を繰り返す。

 男嫌いで男が怖い女の子が何故にタオル一枚でここに居る? かつてない混乱に叩き落とされて思考は停止する。平らな胸になんて興味はないが同級生の女の子と一緒に浴室に居るという異常に気が動転して鯉のように口を開ける。

「ま、前を隠して早く座ってください!」

「ご、ごめん」

 訳も分からずに言われたままに椅子に腰を下ろししばらく沈黙が続く。何故俺が怒られるんだ…………震えるほど怖いくせにどういうつもりなんだろう?


 沈黙の中震える手が俺の背中に触れて彼女がぽつりぽつりと言葉を零す。

「私の……せいだから、ごめんなさい……助けてくれて、ありがとう。あの時は、本当に、怖くて……大きな影が自分にのし掛かって来て手も足も震えてちゃんと動いてくれなくて、もう駄目だと思いました。だから、ありがとうございます。あなたの事は嫌いですけど、感謝もしてますし私のせいだから、治るまで、お世話、します……から」

 そう言って震える手で俺の頭を洗い、背中を流していく。男という括りじゃなく名指しですか…………。

 神崎のせいではないしこんな事はしなくていいと何度か言ってみたが怪我の件を相当重く見ていて責任を感じているようで手を使う必要のあることは介助するの一点張りだ。苦手なくせに意外と強情だ。

 出来ないでしょう? と言われてしまえば確かに今までのように簡単には出来ないが、男が嫌いで怯えている女の子にこんな事をされても申し訳ないだけなんだが……風呂に入るという目的は果たしたしさっさと出てしまおう。

「なにやってるんですか、お湯に浸かってください。血行を良くした方がいいんですから」


 出ようとする俺を湯船に押し込んで自分は髪を洗い始めた。

 もしかしてこのまま入るつもりなのか? ……いやいやいやいや、あり得ない。それは流石にあり得ない、小学生みたいだが一応同級生なんだぞ? しかも嫌ってる相手だぞ? ……それなんの罰ゲーム……俺にも苦痛なんですが。

「こっち見ないでください」

「見てない。なぁ、俺が出た後に入るんじゃダメなのか?」

「二度手間じゃないですか」

 そりゃそうだが、嫌うってのはそういう手間を惜しまないものじゃないのか。

「向こう向いててください」


 広い湯船に背中合わせで浸かる俺たち、湯ではない確かな熱を感じて何も言えなくなる。触れている背中は僅かに震えている。

 それでもここに居続けるのは責任感からか、それとも心配からか、どちらにしても難儀というか不器用というか……近寄りたくもない男と背中合わせで入浴って吐き気がするほど嫌なんじゃないのか?


「ずっと聞きたかったんですけど、どうして如月は私を助けてくれたんですか?」

「別に、気まぐれというか……気付いて放って置くのは気分悪いだろう?」

「そう、ですか――」

 そう、あれが誰でも俺は動いた。はず……通報して去ることも出来たのに?

「……気まぐれで腕折るとかも馬鹿じゃないんですか?」

「そうかもな……まぁ、神崎だったからかな」

 小さな女の子が襲われているのに通報だけしてさようならなんて出来るはずもない。

「そう……ですか」

 神崎はお湯に潜り静かな浴室にブクブクと泡を立てる音だけが聞こえる。いつの間にか震えは消えていた。


「楽しかった?」

「母さん!?」

「日和さん……」

 脱衣場を出るとにやけ顔の日和さんが待ち構えていた。これはどう言えばいいんだ? 恋人でもないのに一緒に入浴していた事に対して何かしら言われるかと身構えていたがにんまりと嬉しそうに神崎を撫でている。

「航君のお世話は理央がするのね?」

 りんごのように赤くなりながらも神崎ははっきりと頷く。その瞳はあの時の不安と不快に揺れるものじゃなく、強い意思を持ったものだった。

「そう……じゃあ任せるわね。最後までしっかりやるのよ?」

「分かってます」

「……俺の意思は?」

「どうせ何も出来ないんですから大人しくお世話されてください」

「航君は理央より私にお世話されたいの? それも歓迎だけど、私息子も欲しかったのよねぇ。理央はこの通りだし息子が出来るなんて諦めてたのだけれど……期待してもいいかしら?」

 いいかしら? なんて言われてどうしろと……決意の表情はどこへやら、神崎の不機嫌の度合いが増している。


「それで実際どう? うちの子容姿はかなり良いと思うのだけど」

「そうですね、可愛いですね」

 背を向けてこそこそとやっている俺たちから漏れ聞こえる言葉を聞き取って神崎の顔の赤さが増していく。

「なら――」

「まぁ小さい子になんて興味ないですけど」

「くぅ……おっぱいね!? おっぱいが足りないのね」

「そうなんです、おっぱいが圧倒的に足りてません」

 自分の胸を持ち上げる日和さんから目を逸らして同意する。

「それは今の理央には望めないものだものねぇ。将来性に期待して、って事にはならない?」

「なんでそこまで拘りますか……」

「だってだって、これを逃したらこの子もう一生男の子と関わる可能性が無いかもしれないじゃない。この子この先ずっと独り身なのかしら? とか心配し続けるのは嫌なのよ」

 親としては切実な問題らしく、神崎の今までの男子に対しての態度を長々と語られた。当の本人はと言えばいつの間にか自室に引っ込んでいた。


 日曜日、休みと言えばゲームや趣味に時間を費やしたいところだがここには必要最低限の物しか持ってきていない。となれば出来るのは勉強だけである。

「いや、やらないといけないんだけどね」

 ゲームが恋しい、プラモを作りたい。そんな願望を抑え込んで机に向かいそろそろ昼になるという時間、不意に扉が開いた。

「うわ、あんたまだやってたの? 要点はまとめてあるしそこまで時間が掛かるものじゃないでしょ――ってこれ中等部の参考書じゃない。あんたなんでこんなの読んでるの?」

 さてどうするか、これからも不意にやってくる可能性を考えれば話してしまう方が楽かもしれない。恥じではあるが――。

「なるほどねぇ、あんた引きこもりだったんだ」

 見下される、そんな事が頭を過る。

「そういう事なら早く言いなさいよ。勉強くらい簡単に教えてあげるわよ。そうね、暗記系はともかく他は中間までになんとかしましょ」

「中間って五月下旬だろ? もう一月くらいしかないぞ」

「出来る出来る、ゴールデンウィークに神社で勉強会するわよ。神楽たちにも協力してもらえば大分進むはずよ。家に居る間は理央が見てくれれば良いんだけど……まぁ無理だろうからあたしが暇な時に見に来てあげる」

「なんでそこまで……」

「忘れたの? 理央は私にとって大切な親友なのよ。あの娘の紅い瞳ありのままを受け入れてくれてその上危ないところを助けてくれた。あたしがあんたに何かしてあげる理由はこれだけで十分よ」

 そう言うと奏は俺の隣に立ち遅れている勉強を見てくれた。彼女の解説は分かりやすく、一人で進めるよりも何倍も早かった。

 せっかくの休日を潰し夜まで付き合ってくれる奏のあたたかさと神崎への思いを強く感じた。


 翌日、教室に入ると目敏く俺の腕に気が付いた三浦が駆け寄ってくる。

「如月なんだそれ? おしゃれか?」

「ギプスだ」

「ギプス? てことは骨折!? マジかよ。女の子庇って骨折とかスゲーな」

「……知ってるのか?」

「あぁ、理央ちゃんが暴漢に襲われてお前が助けたって話を先生がしたからな。頭打って入院って聞いてたけど腕も折ってたのかよ――このギプス凄いな」

 3Dプリンター製のギプスを物珍しそうに三浦が眺めていると前の席からも声が掛かった。


「退院出来て良かったね。如月君結構無茶する人なんだね。屋上に居た時も危ない事してたし、心配だから気を付けてね」

「あ、ああ」

 前の席の彼女は俺の左手に紙切れを握らせると教室を出ていった。紙切れには助けてくれてありがとうと書かれていた。あの時屋上に居た事を知っているということは彼女が教師に言い寄られていた相手だったのか。

 自分の気になっている女子が他の男に声を掛けたものだから面白くなかったのか三浦にしつこく女子の好みを確認される事になった。


「あ……あ~、神崎さんは何やってるのかな?」

 授業を始めようと教室に入ってきた教師が俺たちを見て固まる。神崎は俺の机と自分の机を合体させて隣に寄り添って俺のノートと自分のノートを用意している。

「彼は利き手が使えませんから代わりにやってるだけです」

「そ、そう……ほどほどにね」

「? はい」

 怪我の件は知っているがくっ付き過ぎじゃないかと先生は言いたかったんだろう。男嫌いの彼女にしては快挙と言えるほどに俺に寄り添っている。それがどれほど凄いのかは神楽の顔の引き攣り具合から伺える。常に余裕があり、他者を見下ろしているような態度の神楽はあんな驚いた顔をしなさそうなんだが……他が視線を前に戻しても未だに固まったままだ。


「いやいやいや~、理央ちゃ~ん? これはどんな心境の変化なのよ?」

 喜びとからかいを含んだ声音で奏が神崎を後ろから抱きすくめる。神崎は鬱陶しそうに淡々と理由を語った。

「私のせいで利き手が使えないから責任を取ってるだけです。奏がにやにやするような他意はないです」

「あたしはそんな事まで言ってないけどねぇ、気になるの?」

「なりません」

「その割りには随分とくっ付いていたわね」

「神楽もそう思う?」

 頷き神楽も神崎を構い始めた。彼女たちを少ししか知らない俺にも分かる仲の良さが見て取れる睦まじさがあった。


「彼女たちやっぱり話通り凄く仲良いみたいだな。それにしても骨折かぁ、これじゃゴールデンウィーク遊びに誘えねぇじゃん」

「誘うつもりだったのか」

「如月はほっとくとぼっちで過ごしそうだからな」

 三浦は三浦で会って間もない俺を心配してくれていたようだ。神代ここに来てから色んな人に心配されている気がする。忘れていた、見ないふりをしていた他人の優しさに何も言えなくなる。

「如月ゲームするか? 遊びに出掛けるのが無理なら新作ゲームとかしね?」

「ちょっと三浦君、こいつはゴールデンウィーク中は勉強合宿だから遊ぶ暇なんてないわよ」

「そうなのか? ……残念だな……」

 本当に気遣ってくれていたようで残念そうに落ち込む彼を奏が品定めするように見つめている。

「あんたも来る? 鬼灯神社で勉強合宿なんだけど」

「え!? いいの奏ちゃん?」

 三浦は心配そうに神崎の方へと目をやる。男嫌いの事は話してあるしこの前のあの態度で腰が引けているようだ。

「ま、大丈夫でしょ」

 奏は一瞬迷ったようだったが俺を見たあと了承した。引きこもりでぼっちだった俺に気を遣ったのかもしれない。

 こうしてゴールデンウィークの勉強合宿が確定した。

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