第2話 ハートに火をつけて②

「ああ」

久しぶり、と続ける間もなく炎は勝手に話し出す。


「今日は商家の坊ちゃんに憑いてやって、ちょいと女遊びに繰り出してなあ」

「初座敷の嬢ちゃんに立方 踊り子なんかやらせてな、いやあ楽しかった」


どうも過去に出向いて悪さをしてきたらしい彼の名はホノカグツチ、と言う。


に難があった為に父神の不興を買い、

哀れ惨殺の憂き目に遭った火の神だ。


史実の中で死んだ神は、この様に「現象の中」にのみ存在し、

気まぐれに、また未来・過去を問わず人の前に姿を現す。


彼なら燃えるものーーー例えばそう、このオイル・ライターの火の中に。


「人に憑く事なんて出来たんだ?」

火の中に時折現れるもの、程度に"ホノカグツチ"を見くびっていた私は、

楽しげな彼の話の腰を折りにかかる。


「ああ、ほれ、欲望の炎、なんて言うじゃろう?」


呆れた。

炎、と銘が打たれていれば何でも良いのだろうか。


とは言え、彼も一端の神様だ。

へそを曲げられてもつまらないので、本音にそっと蓋をして、

ああ成る程と膝を打つ。


「初心な癖、女欲の強い男だったんでなあ、ちょいと背中を押したのよ」

呵呵、と笑って彼は大きくを揺らした。










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