Ex.Ex.神の国

田中一心

プロローグ

第1話 ハートに火をつけて

かしゃり、かしゃり。

私はこの、真鍮同士が擦れ合う音が好きだ。


16の頃、ちょっとした背伸びのつもりで買ったこれは、

以来ずっと私の懐にあって、何かと重用している。


この小気味良い音を安定剤代わりに10代を過ごし、そして20歳。

煙草を嗜むようになってからは、片時も離れる事のない相棒となった。


「さて、と」

手慰みに蓋を開け閉めする手を止めて、ベッドから体を起こす。

時計を見ると午後10時、かれこれ4時間近く横になっていたようだ。


気だるさの残る体に鞭を打って立ち上がり、造作なくテーブルに転がっていた一本を咥え、南向きの窓にのそのそと歩き寄る。


建て付けの悪い窓をがたぴしと、こじるようにして開け放つと、

カーテンをかすかに揺らして、嗅ぎ覚えのある香りをまとった風が吹き込んできた。


「今年は早いねえ」


一足飛びにやってきた黄砂の匂いに春を感じつつ、

カーテンを開け、窓の桟に腰を下ろす。

Tシャツにショーツとあられもない格好だが何、構う事はない。


外を見遣ると、習い事帰りだろうか?

子供達が何やら言葉を交わしながら、自転車を押して歩き来るのが見える。


きゃっきゃと賑やかなやり取りを見下ろしながら一呼吸。

フリント・ホイールを親指で回してやると、ぼっ、とオイルの爆ぜる音と共に、

青白い炎が灯った。


「やあ、しばらく」

不意に、炎が私に声をかけた。






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