第3話
「ふぅーー」
息を吐き、腕を伸ばしすと、疲れが取れたような気がする。実際には疲れがとれたような気がしただけであり、とれてはいないのだが。
(一応気をつけておくか…)
気をつけるというのは明との話で出てきたヤバい奴らのことだ。
まさかとは思うが、万が一ということがある。念のため、帰り道は周りを見て、警戒しながら帰ることに決定した。
いつもはイヤホンをつけて帰る道を、総士はイヤホンをつけずに歩いていた。
総士はずっと警戒していた。その為立ち寄ったコンビニでは、明らかに挙動不審な高校生がいて、万引きしようとしてきたのではないか、と店員に疑われ、ずーーーと凝視されていたとかいないとか。
(杞憂だったかな……)
もう家まであと数百メートルといったところまで総士は歩いてきた。
昨日、男性を助けた場所は通らなかった。
あの道は登下校の時間をかなり短縮してくれる道で、あそこを通らなかったら一時間ほど時間がずれるほどだった。さらに、遠回りした場所では電車が通っていたのだが、踏切に止まったのは一回や二回ではなく、しかも、駅に近いところに踏切があった場所もあったため、一度閉まると何分も待たされることになっていた。
ここまでして、警戒していたのに杞憂だったで片付けられてしまうことに少し思うところもないわけでもないがまぁいっか、で済ませてしまう。
そんなことを考えていたせいなのだろうか。
総士の目の前には全く見知らぬ男が行く手を阻むように立っていた。
髪は赤色、鋭い目つきの少しヒョロッとした男で、その目は総士を睨め付けるように見ていた。
「オメェが織田総士か?」
総士は何故かこの男に親近感を抱くが、同時に嫌な予感もしたため、誤魔化すことにした。
「いえ、違います」
総士は早足でその場から離れようとするが
「ちょっと待てよ」
腕を掴まれてしまい、その場に残ることを余儀なくされてしまった。
「俺にはーーいや俺たちにはわかるんだよ。疑わしきは罰せよ、だったが、どうやら当たりだったようだなぁ」
舌で自分の唇を舐めまわし、、懐に手を入れる。
出てきたのは黒光りし、L字の形をしたもの。持ち手は少しザラザラとしていて、人差し指に掛かるところには輪っかがあり、その中には棒が一本ある。親指にはノ字型の黒いものがあった。その先には全体的には円柱で外装が四角く、近代的なものをイメージさせた。先端は穴が空いており、その中は暗く、闇に包まれていた。
今の日本ではまず見ないもの。少なくとも普通の生活をしていれば見ることはなかっただろう。
初めて武器として使われたのは織田信長と武田勝頼が戦った長篠の戦いだ。その時はあまり脅威ではなかった。しかし、時が経つにつれ改良されていき、戦争に使われ始めた。億を超える人を殺し、畏怖させ、恐怖させたものの名前を人は"銃"と名付けた。
総士は固まった。頭が回らなかったのだ。
総士にはいくつもの疑問が浮かぶも、今問題なのはその銃が自身の腰辺りに当てられているということだった。
男は総士の腰に当たると滑らかに指を動かしていった。トリガーガードを通り過ぎ、トリガーに指をかけた。そして指が曲がり銃弾が発射される、というところでやっと総士が動き始めた。
「うわぁああああああああああああああああ!!!!」
恐怖を紛らわすように声を荒げ、体を捻る。幸いにも男が掴んでいた手はあまり強く掴まれていなかった為、なんとか抜け出せた。
上から無理矢理押さえつけるようになんとか銃口をアスファルトの方向へと変える。
パンッという乾いた音が聞こえると、その先の地面には小さな穴が空いた。
もしこれが総士に当たっていたのならば確実に死んでいただろう。内臓が傷つけられ、出血多量等で死ぬ。総士はここまで考えた時ゾッとした。当たり前だ、もしかしたら死んでいたかもしれないのだから。
ここで総士は男を止めていないことに気づくが既に遅かった。
「ちっ、動くんじゃねぇ、よ!」
男が銃を持っている手とは反対の手で総士の腹を殴った。
肺から空気が抜ける音が聞こえる。
それだけでは止まらず体を反転させ、回し蹴りで総士の顔面を蹴った。
総士は三メートル程まで飛ばされる。
男は余裕の態度で銃を構える。
まず総士には不利な点が二つあった。
一つが射程距離。男が持っている銃に比べて総士は何一つとして持っていない。あるとすればバックぐらいだろう。
殴る、蹴るぐらいの攻撃しかできないのだ。もしもここで後ろを振り向き、背中を見せながら逃げようものならすぐに撃たれあの世行きだ。
そしてもう一つが戦闘経験だ。男はどうみても場慣れしている。近づいたとしてもすぐに体術で倒されてしまうだろう。まぁ、力自体はあまりなく、総士でも簡単に抜けられてしまうのだが。
総士には不思議な力があるが、既にもう試している。しかし、それは何故か男にはきかず、無効化されてしまった。
ここで総士が出した勝つための結論は一目散に逃げて罠をはって倒したり、警察等に通報するということと、男に近づき銃を破壊、もしくは強奪し、近距離での戦闘をすることだった。
総士には疑問がいくつもある。
この男はなんなのか。何故力が使えないのか。
だが今総士にあるのは生きるという生存本能だけだった。それ以外は邪魔者でしかなかったのだ。
パンッという乾いた音がもう一度聞こえる。
(クッソ!!何かないのか!あいつに近づける方法が!!)
総士は銃を破壊、もしくは強奪することにしたようで、なんとかその方法を探そうと必死になっていた。
だが現実は非情で、無慈悲にも発射された弾丸はしっかりと総士に向かって飛んでいった。
せめて、と総士は右手を前に出した。
弾丸は空気の間を縫っていくように飛んでいく。右手はギリギリ中指の先端に銃弾が触れる。そして、中指を通り過ぎて行き総士の額へと当たり、銃弾の流れに逆らわず、髪が引っ張られるように頭が吹っ飛んで行くーーーーはずだった。
総士の中指に触れた瞬間、右手に青白い電気が帯び始めたのだ。その電気はまるで小さな雷の集合体のようだった。
電気が銃弾に感電するように帯び、そしてその奥にある男が持っている銃本体にも蔦が伸びるように電気を帯びた。
そして、電気がさらに強くなり一瞬光ったと思ったら右手の前にあった銃弾が消滅し、銃がバラバラに分解されたのだ。
そのことに呆然としている男。ブツブツと何か言っているがそれは総士にとってチャンスでしかなかった。逃げるチャンスだ。
総士が慌てて後ろに逃げようとする。そのことに気づか男。が男の態度に余裕の二文字は崩れていなかった。
懐から出したのは"二つ目の銃"。それも先程とは打って変わって形が異なっている。
持ち手が一つだったのが二つに変わり、その間に長い棒が一本あった。
それを知識のみでだが総士は知っている。
(あれはサブマシンガン!?あいつ二個持ってたのかよ!!)
総士は今までにないほど焦っていた。
その焦りを増加させるように男は言った。
「本当は使うつもりなんてなかったんだけどなぁ。まぁ確実に仕留めるためだ」
男が履いていた黒いジーパンがだんだんと青くなっていく。それに続いて茶色いコートも白色に近い何かへと変わって行き、最終的には"無"となってしまった。
(は?消え…た?)
男は消えたのだ。そのことに足が止まってしまう。
運が良かったのだろう。総士の顔の横に何かが通った。
総士の頬に赤いものが垂れる。血だ。
「ちっ!そのまま走ってりゃ当たってたのによ」
何もない空間から声が聞こえる。
(これはなんだ!!どうして消えた!!)
逃げるために走りを再開する総士。その時でも頭を使って考えていた。しかし、たった数秒で答えにたどり着く。
(俺たちにはわかる、当たり、と言っていた。つまり俺の何かを当たりと言った。それはおそらく……この不思議な力のことだ。あいつに何故か親近感を抱いた。もしかしたら同じ力を持っているもの同士はそういったものを感じるんじゃないか?憶測でしかないと思うがそれしか考えられない。消えたのはあいつの力によるもの。それに見たところその力を使いこなしているようにも見えた。だったら俺にも使えるはず。あの電気が俺の力ならばまだチャンスはある!)
総士は住宅街を走る。生き残るために。
Strange past 今際健 @imawatakeru
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