第58話 case2–7
次に行うべきことはわかっていた。
粕田彼方に会う。それが最善手だ。
そんなわけで、僕は彼が通う学校にきていた。彼の自宅の住所がわかるならばそこに向かえばいいが、わからないなら仕方ない。しかし……どうしてここまで奇異の目線を向けられるのだろうか。
「ねえ、あれ誰?」
「知らねえよ。出待ちかなんかか」
なるほど。僕のこの行為は、出待ちのように見えるのか。確かに出待ちは出待ちだが、彼らの言うような出待ちではないだろう。しかし、注目されてしまった。すこし支障を来すかもしれない。僕はそう考えて、自分のスマホの画面にすこし細工をした。
「……来たか」
新開と別れる際に、顔写真をもらっていたのですこしうつむき加減に歩いてきた彼を察知することができた。
特に特徴ある顔立ちでも、体型でもない。誰の印象にも残らなそうだ。なるほど、サンドバックにもってこいのタイプだ。
「粕田君でしょうか」
僕が声をかけると、彼は肩をビクッと震わせた。
「……あなたは?」
「初めまして。僕は浅井祥。あなたにお話ししたいことが……」
そこまで言って、周りのひそひそ声に気づいた。そうだ、今の僕は注目されている。上手くやらないと。
僕はスマホの画面を、粕田君に見せた。
『深海恭介の一件でお話があります。ついてきてください』
また粕田君は肩を震わせた。
正直、ここは賭けだった。
ここで彼が僕を恐れて口を閉ざしたなら、道は断たれる。
どちらに転ぶか、全くわからなかった。
粕田君は顔をうつむけて、何も言わない。周りがさらにざわめく。 さあ、そっちだ。
「……いきなり見ず知らずのやつに話しかけられて、答えるわけないでしょ。どっか行ってください」
粕田君はそう言うと、どこかに立ち去っていった。
……詰んだ。
本当にまずい。
だってこれで。
星川たちにつながる手がかりが消え失せたんだから。
視界が真っ暗になりそうになるのをこらえる。ここはひとまず撤退だ。一度帰ろう。
そして考えるんだ。考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ……。
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