第54話 case2—4

「では、ミーティングを始める」

 アインワーシュ一階。喫茶店の閉店後に、根岸さんの一言で、その日の会議は始まった。

 メンバーは私、根岸さん、瑠璃さん、前回の案件のMVPの千里さんの四人だが、この場にいない協力者も十人ほどいるから、なかなかに大きな組織だ。

「まずは経過報告を千里から」

「はい」

 千里さんは、教師を目指している普通の学生だった。でも、前々から、私たちの理念に賛同してくれていて、こうして手伝ってくれている。今回のことは、仕込みではなく、単なる偶然だ。

「まず、いじめの主犯格である深海、情報屋であった梨田らのグループは、全員学校を休んでいます。グループ内で再度結託している様子もなし。こちらの思惑通り、内部分裂をしているでしょう」

「そうか」

 根岸さんは、満足げにうなずいた。でも、私は違う。彼らが学校を休んでいる理由は、内部不和ではなくおびえからだろう。深海はともかく、ほかのメンバーは、梨田に自分の情報を流されて、立場を失うのではないかという恐怖で。梨田自身は、深海からの報復が怖くて。結果は同じだが、中身が全然違う。そして、それを知っているのは、深海と、浅井と、私だけだ。

「では次。サイト運営のほうはどうなっている?」

 話題が私に振られた。死んだふりをしていた間、別に何もしていなかったわけではない。サイトの運営は続けていたし、直接会った方がいいと判断した相手には、開店前のアインワーシュで、瑠璃さんに会ってもらっていた。

 でも今日の問題は、それで直接会った人々のお話ではない。私は、席から立ち上がった。

「今日問題として報告するのは、これです」

 私は、サイトに届いた一通のメールを見せた。


『先日相談させていただいたものです。また相談したいことがあるので、お伺いしてもよろしいでしょうか?』


「この文面の何が問題なんだ?」

 千里さんが疑問を出す。

「内容ではなく、差出人が問題です」

 これが普通の相談メールであればよかった。でもこれはまずいかもしれない。

「この差出人は、先日ここに来た東海さんです」

 そこまで言って、場の全員が問題を理解した。

 東海さんは三月学園の人間で、前回相談に来たとき、私に直接会っている。つまり、このサイトの運営者が私であると知っていて、なおかつ、私が死んでいることを知っている人間なのだ。

 運営者がいないと知っていてなお、わざわざ直接会いたいといってきた。これは無視ができない。

「わかった。対応を頼む」

「はい。瑠璃さん。面会してもらえますか?」

 私の申し出を、瑠璃さんは快く受け入れてくれた。

「いつも通り開店前でいい?」

 私は頷いた。

「では、今日のミーティングを終了する」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る