第52話 case2—2
「まず聞くけど、いじめられ始めたのはいつ頃?」
持ってきていたトートバッグから、ノートと筆箱を取り出す。情報をまとめて、対応を協議しないといけないからだ。
「小学校の終わり頃から……だと思います」
彼女の話によれば、低学年の頃は、クラスの中心人物だったり、勉学、運動に精を出したりすることによって、その立場を形成していたらしい。
「でも、それだけで済むなら、私のところに相談しに来ることはないよね」
東海さんは、コクリと頷いた。
「変化が起きたのは卒業が近くなってからです」
卒業が近づくにつれて、雰囲気が変わったのだという。彼女を取り巻く環境が、何故か変化して、それに適応できなかった彼女は、放逐された。
「でも、それっておかしくないですか? 環境に対応できないからって、それは変でしょう?」
それはそうだ。馴染めないからって、排斥するのは違う。
「じゃあ、あなたが望んでいることは何?」
自分の学校にいじめがまだあるなんて信じられなかったから、直接話しを聞くことにしたが、これは思ったより根が深そうだ。
東海さんはゆっくりと、ため息をつくように言った。
「私はただ、私のことを認めてもらいたいだけなんです。もう一度、あの場所に戻りたい。それだけです」
その日の面談は、それで終わった。
根が深い、そう思ったのは間違いではないようだ。いじめの相談サイトにアクセスするほど思いつめているのに、求めていることは、断罪でも、制裁でもない。ただの復元だ。
自分の学校だからと、私はこの依頼を受けたが、そこのギャップがわからなくて、私はずっと考え続けている。
「響ちゃん」
そこで瑠璃さんに名前を呼ばれて、私の回想は終わった。
「朝ごはん、たべましょ」
瑠璃さんの方を見ると、トーストの香ばしい匂いがする。
「……はい」
今はともかく、美味しい朝ごはんの時間だ。考え事はその後だ。
私は、自分の皿を並べるために、キッチンへと向かった。
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