第51話 case2—1

「驚きました。まさかサイトの運営者が星川先輩だったなんて」


私と彼女の会話はそこから始まった。


「意外だった?」


「ええ。でも納得はします。先輩のイメージとズレてません」


私は笑いながらありがとうと礼を言ったが、そこまで私たちの話は広まっていたのかと驚いていた。


「まあ驚いたのは私も同じなんだけどね。まだコミュニティが形成されていない下級生でも、そんなことが起きてるんだ」


「下級生にもコミュニティは既にできてますよ」


東海さんは首を横に振り、諦めた風に言う。


そういえば、言われてみればそうだ。浅井もその方面で苦労していたから、学級委員なんてやっていたのだ。


彼のような搦め手を使わない限りは、学校生活はめんどくさいだろう。


「ごめんなさい。わかりきってることを聞いてしまって」


「いえ。そんなに気にしてないですから」


東海さんは綺麗に笑った。たとえそれがこちらを気遣ったものであっても、彼女は綺麗に笑った。


こんな綺麗に笑える人が、どうして嫌われるのだろうか。


素直に、わからなかった。


この時、私はため息をついたんだろう。今ではもうよく覚えてないけど、私にはそうとしか思えない。


だって私は、浅井みたいに人のことを考えながらやれるわけではない。そんなことはできない。彼はあんな口ぶりで言うけど、本質的には、人のことを考えて、色々なことをしているのだ。でも私には、そんなことはできない。だから私は、単刀直入に聞くしかないのだ。


「何が起きたの?」


「……本当に噂通りの人ですね」


彼女は、あくまで笑みを崩さなかった。


「ごめんなさい。でも、私はこれしかできないから」


「浅井先輩と違って?」


「うん。だから教えて。あなたに起きたこと」


「……わかりました。ちょっとだけ嫌ですけど、星川先輩、あんまりにまっすぐだから」


違う。私はそんな人じゃない。そんな風に評価される人間じゃない。今も、あの時も、そういう風に、私はなっていた。でも、ここはニッコリ笑うべきところだ。「ありがとう」と言うべきところだ。


それをちゃんとやれるだけの力があの時はあった。だから、しっかり笑えたのだ。でも今、同じ状況に置かれたから、きっと私はそうできない。私はそんな人間でないと、あまりに知りすぎたからだ。


……ともかく、東海さんは、彼女に起きたことを話してくれた。



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