東海春子の案件について

第50話 case2—0

「おかえりなさい」


 拠点に戻ると、一人の女性が出迎えてきた。


 彼女は冬田瑠璃。私たちの仲間であり、喫茶店「アインワーシュ」のオーナー。いつも依頼人の相談を受ける時に使わせてもらっている。


 そして、「アインワーシュ」の二階を、私たちの拠点に貸し出してくれている。私が生きてこれたのはこの人のおかげといっても過言じゃない。


「ありがとう瑠璃さん。あとで部屋にコーヒー持ってきてくれない?」


「構わないけどほどほどにね。徹夜は体に毒よ」


「心配してくれてありがとう。でも、一件目の運が良すぎただけだから、警戒はして損はないでしょ」


 粕田彼方の案件はうまく行き過ぎた。初めから手駒は全て自分たちの手の中。コンピューターに強い人もいたし、潜入可能な人もいた。だから、あとは網にかかるのを待つだけ。


 でも今回は違う。手駒ゼロの状態で、相手を落とす必要がある。


 今回、私たちが切れるカードは、下準備の段階、依頼人から話を聞く段階でのアインワーシュと、情報が集まった後の制裁手段しかない。


 つまり今回は、依頼人側に犠牲を強いる可能性が高い。


 そんなことはさせない。絶対にさせない。


 だから私は、毎晩徹夜気味のことをして、全てうまく行く方法を探しているのだ。


 それはまだ見つからない。



 翌日、朝まで考えたものの、結局良い案は思いつかず、私は寝ぼけ眼のまま、階下のアインワーシュに降りた。アインワーシュは、朝は営業していないので、この時間帯は私たちの朝食に使われる。


「おはよう響ちゃん。また徹夜?」


「うん……全然良い案が浮かばなくてね」


 私はそう言いながら、依頼のことを思い出していた。


 ————————————————————


 依頼人の名前は東海春子。あろうことか私たちの学校の中学一年生だった。まさかとは思ったが、学生証を提示してきた。


 その時は私も普通に生きていたから、特に怪しまれることもなかったので、依頼だけは聞いていた。しかし、その後の方針は、瑠璃さんを通して伝えることになるだろう。彼女の学校で、つまり私の学校で、私は死んでいるのだから。


 私の脳は、どんどんと用意されていく朝食を待ちながら、依頼の日のことを再生していた。

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