第48話 case1—judgement

「おはよー」


 翌朝、俺が学校に行くと、明らかに雰囲気が違った。


 何時もならば、深海か、その取り巻きの話し声がするのに、今日はそれがない。見ると連中は皆教室にいなかった。


 俺は、隣の席にいた、比較的親しいやつに話を聞く。


「なあ、なんかあったの?」


 そいつは、とても驚いた風を見せてから、小声で、


「知らないのか?」


 と言ってきた。


 少なくとも、こういうタイプの出来事が起きうるだけのネタは把握していないので、俺は首を縦に振った。


 友人は俺を教室の隅に連れて行くと、こんなものを見せてきた。


『未来の陸上界のスター!カンニングをねつ造か? さあみんな糾弾しよう!』


「この手のサイトがあちこちにできてる。てっきりお前のかと思ったんだが」


「……いや知らねえよ。確かに俺らしいやり方だけど、あいつには手を出す予定はない」


 なのに、ここで話題に上られてるのは俺の写真だ。あのカンニングねつ造の瞬間を収めた写真だ。


 どうしてだ。どこから漏れた。


 俺は教室を出て、トイレに駆け込む。腹が痛いわけではない。確かめるためだ。


 噂の出所はどこか。それを調べる必要がある。


「……これか」


 それはねつ造糾弾サイトではなく、ただのSNSに投稿されたものだった。


 ただの写真が貼られた投稿。それだけだった。


 それだけで、全ては勝手に始まったのだ。


 誰だ。これは誰のアカウントだ。


 この手の調べ物は入学当初によくやった。まず自分の連絡先で検証。反応なし。なら名前からか? しかし『Evil』なんて厨二くさい名前を好んで使うやつで、こういったものに目ざといやつはいない。加えて、名前で関連するやつは……。


「待てよ」


 Evil——英語で邪悪、そして、


「まさか……」


 あの日、俺の携帯を取り上げたのは、それが理由だったのか……。


 俺はトイレの扉に拳を打ち付ける。



「そんなゴロを使っても面白くねぇよ……千里忠っ……」


 次の瞬間、俺は自分の立場を自覚した。


 深海とは、この写真の秘密を守ることで、お互いの安全を保障していた。


 逆に、俺がこの約束を破れば、あいつは俺の写真をバラす。


 そうなれば、俺の身は破滅だ。


「っ……あぁぁぁっ!」


 視界が、真っ暗になった。



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