第43話 case1—4
そこにいたのは、千里の他にやってきた、教育実習生の男女二名だった。やりたいことはなんとなく察しがつくし、そのシーンがなくても、こんな場所で会っていたら、勝手に深読みして話を広げる奴がいるはずだ。
不意にスマホが鳴った。メールのようだ。誰だこんな時に。でも、相手を見て納得した。
『粕田ネタの提供。場所、体育館裏
クラスメイトの深海はうちの学校のトップスター。成績はあまり振るわないものの、陸上やらなんやらの大会で実績を残しているので、将来に不安はないようだ。性格も陽気で、たくさんの友達をもち、たいがい分け隔てなく接する。
だからこそ、彼の持つ裏の顔に気づいている者は少ない。俺ですら、奴がボロを出さなければ分からなかった。
その機会をくれたのは、粕田だといえよう。
もとよりカースト底辺のあいつだが、それでも手酷いいじめを受けていたりとかはない。そんな彼の状況が変わったのは、あのカンニング疑惑が原因だろう。
実はこの件は、珍しく俺が検知していなかったし、俺のねつ造でもない。落ちるところまで落ちたやつを落とす意味はない。
学校の裏サイトに、粕田の筆箱の画像が挙げられた。ただ筆箱を写したものではない。中身を取り出して写したものだ。
そこには、ボールペンの画像と、そのボールペンの製品情報が貼り付けられていた。『カス田、カンニングボールペンを使う!』というコメントと共に。
それが事実かなんて関係ない。
最大に重要なのは、一番面白いかどうかだ。
だから真偽にかかわらず、ネタには尾ひれがついて、どんどん広がる。
でも俺は、このネタを誰が広めたのかが気になって、いつもの場所に移動して、教室の様子を撮ったカメラを見ていた。
するとどうだろう。
深海のやつが、粕田の筆箱の写真を撮る、決定的瞬間を収めていたのだ。
これは使えるぞ。
と思い、裏サイトに投稿しようとしたのだ。
そこに、深海が来た。
この時、俺は二つのものを見られた。
一つは、深海のことを収めた写真。もう一つは、俺が元写真部部室にいたという事実を。
それだけで深海は全てを察したのか、こう持ちかけてきた。
「取引しよう。お前に俺はネタの提供と、このことを黙っていることを約束する。お前は、俺のしたことを黙っているとともに、俺のイメージアップを手伝え」
「はっ、たかだか同じクラスの根暗を捕まえて、なんになるんだよ」
深海はため息をつくと、ピースサインをしてきた。
「は?」
「二つ、訂正しよう。一つ目に、お前は根暗ではないだろう。クラスでいつも楽しげに皆と話しているからな。そしてもう一つ、お前はたかだかと評価される人間ではないだろう? La Franceさんよ」
この瞬間、俺の見立ては全て間違いだと悟った。
思えば初めからおかしかった。
教室でのこいつは、太陽のような光を持つが、今のこいつにそんなものはない。
今のこいつの目に宿るのは、怜悧な光。獲物を捕まえる、ハンターの目だった。
俺にこれを断るという選択肢はなく、ただ受けるしかなかった。
だからそんなこんなで、深海とは関係が続いていて、定期的にこのような連絡が来る。
しかし、今は別だ。
目の前にうまそうなネタがあるのに、それをものにしないでどうする。
俺は『今日はパス』と送ると、カメラを構えた。
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