粕田彼方の案件について

第40話 case1—1

「よし、撮れた」


 ここ、岩野市立第一高校の校舎裏は、隠れてコソコソやるには絶好の場所なのだ。まあここ、旧写真部部室からは筒抜けなのだが、今のところそれは俺しか知らない。実は知っていたとしても、こんな情報は、隠し持つのが一番だ。


 まあそんな訳で、絶賛帰宅部エンジョイ勢の俺は、そこに今日もカメラを向けていたのだが、今日もまた一匹釣れた。


「おー、これは上玉」


 そこに写っていたのは、最近なにかと株を上げている男子野球部員。最近行われた地区大会で、予想外の活躍をして、一躍注目を集めた。顔も悪くないので、彼について知りたいという依頼は、良くも悪くもたくさん来る。


 そんな彼が、校舎裏で煙草を吸っていた。


「さてこれ、どう調理したものか……」


 彼のファンを失望させたくなければ、間違いなく伏せるべき。しかし、彼を叩き落としたい人からすれば、間違いなく公開すべき。


 前者なら、みんなハッピー。後者なら、みんなアンハッピー。


「まあ、迷わず公開かな」


 だって、その方がエキサイティングだろ?


 俺はまたカメラを取り出し、パシャリパシャリ。


「これで十分」


 俺はその場でパソコンを起動。カメラの写真を取り込み、即座にインターネットに接続し、学校の裏サイトにアクセス。


『今日もまた面白いのが釣れたよ〜』


 可愛いテディベアのアイコンと、『La France』のユーザーネームを持つのが、俺のアカウントだ。


『お、なんだなんだ』


『ナシさん今日は?』


 La Franceだからかナシさんと呼ばれている。案外気に入っているのでこのまま放置。


『今日はこれだよ〜』


 ドンっという効果音がつきそうな感じで、俺は写真を投稿する。


『うわ、まじかよ』


『温井くん信じてたのにー』


 一瞬にして、サイト内は悲しみの渦に巻き込まれる。その悲しみは、やがて怒りへと変わり、皆の期待を裏切った温井へと向く。


『どうしてやろうか』


『まあシカトは安定?』


『いやいやーここはこれ利用してカツアゲだろ』


『抜け駆け禁止な。俺も混ぜろ』


 よし。


 あとは勝手に尾ひれがついて、温井とやらは失墜だ。


 俺は何も知らない温井クンを窓から見下ろす。


「君の人生、終わりだよ」


 ケッケッケっと、いかにも悪役めいた笑い方をして、俺はその場を撤収し、立ち去った。





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