第三幕 正義と、裁き
第39話 case.1—0
展望台を後にした私は、一台の車を見つけた。車の運転席の窓が開き、一人の男が顔を出した。
「よう。終わったか?」
私はそれに無表情で頷き、助手席に乗り込む。
その人物こそ、津山先生の兄、根岸雄大である。
ジャーナリストとして仕事をする彼は、私たちの中で情報面や、人脈面を担当している。
そして彼こそが、あの計画、復活作戦を立てた張本人だ。
だから、しばらくの間は、睨みつけるような気概もあったが、今はもう、それも失ってしまった。
「根岸さん」
「なんだ?」
「進捗はどうですか?」
根岸さんの顔が強張る。
「だいたい終わった。あとは流すだけだ」
「そうですか」
後始末はうまくいっているらしい。
「では、その仔細を教えてください。最後のボタンは、私が押します」
「いいのか?」
「……何がですか?」
根岸さんはため息をつく。
「別に俺は、お前に辛い仕事を全部やってもらおうなんざ考えてないさ。だからな、わざわざ責任を負う必要なんて……」
「勘違いしないでください」
そこまで腐ってはない。
「いいですか、私があの仕事を嫌った理由は、私の正義に反していたからです。今はああするしかないと認めていますが、ともかく、そういうことです。ですが、いくらあの仕事に付随するとはいえ、これは単なる私のわがままです。だから、できれば最初から最後まで責任を持ちたいです。しかし、最初からは、私は関わることができませんでした。ですから、最後だけでも、責任を持ちたいのです」
私は、曲がりなりにも星川響だ。そこだけは、これからもずっと変わらない、はっきりとした真実だ。
根岸さんは、ふぅ、と、長いため息をついて、諦めたように笑って、
「後ろの席に報告書がある。まずはそれを読んどけ」
私は体を乗り出して、後部座席から『
彼は隣県の高校に通う男子で、クラス内での執拗ないじめに苦しんでいる。私たちが開設している、『ミルキーウェイ』というサイト———いわゆる、いじめ相談サイトに匿名相談してきて、少しずつ話を聞いてきた人だ。
少し前に、私たちの中の一人が、彼に直接会って、その思いの丈や、実際何が起きているかを聞いていたことは知っていたが、具体的に何をしていたのかは知らない。
その全てが、ここにあるのか。
私は、その報告書を開いた。
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5/7 粕田彼方と面会・原台駅近くの喫茶店、『アインワーシュ』にて
内容・
四月下旬より、名前の『粕田』から『カス太』と呼ばれ始める。それはすぐにいじめに発展。本人によれば理由は不明だが、恐らくは名前だけではない。
対応・
粕田彼方が通う学校、岩野市立第一高校の内部状況を確認。具体的な方策としては、五月中旬に入る教育実習生の一人を抱き込むか、自ら入り込み、情報を入手。
最終目的・
原因の究明または情報屋を発見すること
以上。
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